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姿見のような水晶鏡に少女が写っていた。少女は同い年くらいの男女数人に小突かれ、石を投げられ、岩窟迷宮を塞ぐ鉄扉へと追いやられていた。
鉄扉に付いた鎖と鍵は、長い年月をかけ錆で一塊になっていた。怖がる少女を、入れないと知っていながら囃し立てる男女。
「はあー」
血紅色のベルベットに飾られた玉座で、脚を組み退屈そうに頬杖をついた異形のものは溜息をもらした。持て余していた片方の手を水晶鏡に差し出すと、指先で何かをすくうように手招きをした。すると水晶鏡に写る鉄扉が、少女を招き入れるかのように開いた。
少女を囃し立てていた者たちは顔色を変え、岩窟迷宮に入ってゆく少女に背を向けて駆け出していた。それを見届けた異形のものは立ち上がると、半透明な中に青い閃光が走る乳白色のムーンストーンドレスをひらめかせ優雅な足取りでバルコニーに向かった。
「岩窟迷宮から攻めている兵隊を異形のものの姿に変えてから数百年。異形のものとして生きたその者達も息絶えたというのに。人の世は今も変わりはしない」
ムーンストーンを纏った異形のものが、嘆きにも似た声を漏らすと、空から蝙蝠の翼をもった大型犬に似た異形のものが舞い降りて来た。それは爪を隠した猫のような足で黒曜石の床に着地すると、三本の尾をくゆらせ蛇の如き舌先をのぞかせた。
「ありがとう、アークトゥルス」
アークトゥルスと呼ばれた異形のものが伏せると、その背中から水晶鏡に写っていた少女が降り立った。
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