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今まで、大雅は私のペースを乱すことはなかった。
でももう今は、完全に翻弄されてしまっている。
「俺は、絵麻が好きだよ。絵麻が別れたいなら仕方ないと思ってた。でも理由が『嫌い』じゃなくて、『自分を出さない』なら、そこをなおせば別れなくていいよね?」
畳み掛けるように言葉を続けていた大雅が、ふと一息ついた。
普段ならなんともない息づかいなのに。思わず呼吸のリズムも持っていかれる。
「絵麻は、それでも俺と別れたい?嫌いになった?」
「……嫌いじゃ、ない」
喉が締め付けられたように開かなくて、振り絞るように出した声は掠れた。
嫌いじゃないのは、本当。
はじめて大雅に翻弄されて、思わずときめいてしまっている。それが嬉しいとも。
別れたいって思っていた、あの気持ちはどこへいっちゃったのか。
ふと友達の『倦怠期を過ぎれば』って言葉を思い出す。こういう事?こういう事なの?
でも自分から『別れ』を切り出しておいて、なかった事にするのは、どうなの?
変にプライドが邪魔をして「別れない」って言えない。
そんな私に大雅は二枚のチケットを見せる。
1000万人記念で貰った年間パスのペアチケットだ。
「とりあえずさ、別れるのは一年待たない?」
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