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 いっそ良い機会だ。バレンタインに普段のお礼としてチョコを渡して、一緒に手紙もしのばせる。  直接告白したら、優しい中島は困るだろう。後で手紙を読んで、ああそうかと思ってくれたらいい。  悩んだ末に選んだのは、オーソドックスな生チョコだった。  手作りは重いだろうとバレンタイン前日の日曜日にデパートでゲットし、深夜までかかって書き上げた手紙をチョコと同じ紙袋の中に入れた。 「中島さん、少しですがもし良かったら。今日バレンタインデーなので」 昼休みに彼を呼び止め、紙袋ごとさらりと差し出す。異動する元教育係へのプレゼントを怪しむ者はいなかった。 「ああ、悪いな」 中島も心得ているのか、あっさりと袋を持って立ち去っていった。  達成感8割、失恋の悲しみ2割を抱えて志織はいつものスーパーに寄る。買ったのはビールと唐揚げとだし巻き卵。  3年の恋の終わりに乾杯。  ローテーブルに座ってプシュッとビールのタブを開けた時、部屋のチャイムが鳴った。幸い、まだスーツ姿である。  はいはいとドアを開けると立っていたのは中島だった。 「これ、何」 志織が渡した紙袋を持って不機嫌そうに立っている。次いでゴソゴソと中を漁って封筒を取り出した。 「何も入ってないんだけど」 「え……?」 志織はあろうことか、手紙を書き上げたことに満足し、便箋を入れないまま封筒だけを中島に渡していたらしい。 「えっと……間違えて封筒入っちゃったのかな〜。すみません」 「宛名、俺の名前だけど」 「うっ」  告白は手紙じゃなきゃ出来なかったのに。自分の詰めの甘さに泣きそうになる。 「羽鳥のさ、そういう不器用なとこがいいなと思ってたよ」 中島の静かな声に、志織は顔を上げた。 「告白するのが怖いんじゃなくて、俺を困らせるのが怖いって思うようなとこが。だから、俺が返事しなくてもいいように手紙にしたんでしょ」 「それは……」 「でも、俺は返事したい」  外は雪混じりの雨になっていた。ひとまず中島を玄関の中に招き入れる。 「期待していいの」 彼の指が志織の手の甲を愛おしそうにするりと撫でた。 志織はこくりと頷くのが精一杯だ。頷いて顔を上げた志織の唇に、中島の冷えたそれが触れた。 「手紙に書いたこと、忘れないうちに全部教えて」    
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