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面倒な奴に見つかったなあと思いながら曖昧に笑う。
「楽しんでるよ。白石は飲みすぎだって!」
「いやいや、もっと飲め」
白石は志織の正面の席からぐいぐい勧めてくる。ムードメーカーな彼だが、多少空気の読めないところがある奴だった。
断ったら場がしらけることは明白だ。流石に職場の飲み会は学生の飲みのノリとは違い、白石に乗っかって煽ってくる者はいない。
しかし一気まではいかなくても、もう少し口をつけたほうがいいだろう。
志織がしぶしぶグラスに手を伸ばす前に中島が横からかっさらい、一息に飲み干した。
何が起こったか分からず、志織はグラスと中島を交互に見つめる。
「悪いな白石。これは俺の酒だ。羽鳥が度数間違えたらしくてな」
志織の頼んだアルコール5パーセントにも満たないカシオレに嘘をつき、
「あっま」
と顔をしかめた。
普段表情筋死んでるくせにと思ったのは秘密だ。
飲み会の後、案の定中島からお小言はもらった。
「あのくらい自分でさばけるようになれ」
「はい。ありがとうございました。助かりました」
「俺だって、いつまでもお前の隣にいられるわけじゃない」
今思えば、この言葉にショックを受けたのが始まりだった。
ひとつ良いところが見つかれば、後は芋づる式に見つかる。
教育担当を外れても新入社員の仕事をフォローしていたり、コピー機に詰まった用紙を不器用に取り除いていたり。
面倒見のいい人なのだ。困っている人を放っておけなくて、器用なことを言えないから目立たないように手を貸している。
自分以外にも彼の良さを知っている人がいて、そんな彼が評価されて栄転するのは喜ばしいことだった。
喜ばしい気持ちとは裏腹に、酒も食事も進まない。調子に乗って2缶も買ったビールは1缶も飲み干せずにすっかりぬるくなっていた。
社会人の恋愛はスピードが速い。半年も片思いしてたら長いほうで、さくっと食事に誘って断られたら次。良いリアクションなら3度目くらいのデートでは付き合っている。それを志織は3年間も温めてしまった。
玉砕することが分かっていてデートに誘うことは出来ず、かといって気持ちが冷めることもなく。持て余したまま早3年。中島の異動がなければ後何年抱えているつもりだったのだろうか。
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