忘れものはどこへ行く?

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忘れものはどこへ行く?

 週に一度の実家訪問から戻れば、翌日は出勤。  会社の机には、一時間ごとに成長する書類タワー。  最優先タスクは、ITフェア展示会のリポート。明日の午後イチに発表しなければならない。発表用のプレゼンファイルは無垢な赤子のまま。  当然だ。なぜなら私は、展示会に行ってないのだ。  一睡もできないまま朝を迎えた。雲一つない空の青が目に突き刺さる。  通勤電車に乗るが、午後の報告会は絶望的。午前中に報告書をでっち上げるのは不可能だ。  実家とは反対方向に電車が走りだす。三つ目の駅が、会社の最寄り駅。  ──私は、駅を降りなかった。電車は、北へ北へ進む。  異動して三年は頑張ったが、この一年、すっかりやる気が失せた。  一年前に何があったのか? 厳しい役員が入社した? 親の具合が悪くなった? それとも更年期? ……どれでもない。私は元々こういう人間なのだ。  大学でも最初に就職した会社でも、同じことをしでかした。  今まで踏みとどまっていたが、ついにやってしまった。一度やると……戻れない。前もそうだったから。  午前十時。会社のガラケーが、けたたましく鳴りだす。電車は鉄橋に差し掛かる。下は川だ。うるさい携帯を車窓から放り投げた。ほどなくスマホがブーブー震えだす。橋を渡る前に、スマホも外へ捨てた。ガラケーもスマホも川が受けとめるだろう。  電車は終点についた。  通勤と実家訪問以外にこの路線を使ったのも、北の終着駅で降りるのも初めてだ。  自動改札を抜ける。目に、懐かしの光景が映った。 「あれ! ここ、知ってる! だって、毎日行ってた!!」
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