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退勤の必須アイテム
最近、忘れものが多い。傘は普通に置き忘れるし、家の鍵も閉め忘れる。
そして今、重要なアイテムを、どこかに忘れてしまった。
事務所机には、高さ三十センチの書類タワーがそびえ、周辺に何本ものボールペンが散らばっている。
書類の束をめくって、探しものが挟まっていないかチェックする……ない!
床に置いたビジネスリュックを開ける。前のポケットに……ない! 内ポケットに……ない!
アレがないと、私は会社から出られない。朝、誰かが出勤するまで。
会社が新しいビルに引っ越した日、カードキーを渡された。出入りは自由だが、最後に帰る人は、カードキーを使って施錠しなければならない。
カードキーがないと、最後まで残れない。残ってはいけない。鍵がかけられない。
このカードを渡されたとき「高いから失くすな」と総務担当から脅された。このままでは始末書提出は間違いない。
いや、今は始末書を心配する時ではない。このままでは家に帰れないのだ。
私はオフィスをあとにした。カードの行方に心当たりがある。
昼休み、コンビニで弁当を買ったとき、カードキーが収まっているホルダーをリュックにしまった……気がする。
カードキーは社員証を兼ねている。昼休みぐらい会社員であることから離れたいので、私はいつも、カードの入ったホルダーをリュックにしまう。
しまおうとしてカードを落としたのでは? と予測を立てて、問題のコンビニに向かった。
予測は正しかった。コンビニでちゃんとカードが保管されていた。
「うわああ! 本当に助かりました!」
嬉しくて、買うつもりがなかったフルーツティーとチョコクロワッサンを購入する。
夜十時。
この時間、およそ三十人が働く小さなオフィスには、私しかいない。週に四日はこんな感じだ。
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