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花火大会の会場は、人でごった返していた。軒を連ねる屋台の間を歩く家族連れやカップルの姿、水ヨーヨーを手に走り回る子供たちもいる。昔懐かしいりんご飴や綿飴を売る店、金魚掬いの露店も出ている。途中でお好み焼きと焼きそばを四人分買った。ケイティは食べるのが楽しみと目を輝かせていた。
砂浜に着く。海の向こうに浮かぶ屋形船の灯が見える。私たちは多くの人がやっているように、砂浜の空いている場所に持ってきたピクニックシートを敷いて腰を下ろした。ケイティが私の左横にいる。トウマと彼女が手でも繋いでくれたらいいな。少し、というかかなり辛いけど。
アナウンスのあと、どこかで聴いたことがある洋楽バラードが流れ、一発目の花火が打ち上がる。円状の緑の閃光が、紺色の夜空に弾ける。遅れて火薬の爆ぜるドンっという音が聴こえる。
「たーまやー」
ミコトが言ったのに続いて、ケイティも同じ言葉を繰り返す。私もトウマも続く。
次に、枝垂れかかる柳の木のような形の金色の花火が夜空に広がる。
「綺麗ね」
ケイティが日本語でつぶやく。そうだねと私も頷く。彼女は日本に来てから、日本語がたちまち上達した。まだ片言ではあるが、それもまた可愛くてたびたびキュン死しそうになる。
「なんか喉乾いたなー」
花火も中盤になった頃、トウマが言った。
「私も。何か飲み物買ってきてよ、トウマ」
ミコトが焼きそばを頬張りながら言う。
「やだよ、俺は花火が見たい。レンカ、お金渡すからケイティと行ってきてくれないか?」
「トウマくん、人遣いが荒いですね」
ケイティが苦笑いしながら立ち上がったので、私も心の中で不満を言いながら立ち上がる。トウマから渡された千円を受け取り、ケイティとともに出店のある方に向かう。
トウマがこんな風に人をつかうなんて、珍しいことだ。よっぽど花火が見たかったんだな。
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