花火大会

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 飲み物を買ったあと、金魚掬いがしたいとケイティが言ったので、二人で人気のない露店に入ってチャレンジすることにした。中にはごま塩頭の強面のおじさんが一人いた。二百円と引き換えでおじさんが差し出した、薄紙の貼られた虫眼鏡くらいの大きさのぽいを受け取る。水色のビニールプールの中を泳ぎ回る金魚を掬おうとするも、紙が簡単に破れてしまい上手くいかない。 「結構難しいね」  苦戦しながらも、ケイティは金魚を1匹ゲットした。ビニールの巾着の中を泳ぐ金魚を嬉しそうに眺めるケイティの姿を、私はただ見つめていた。その顔は夜空に打ち上がる花火に照らされて、とても綺麗だった。 「ケイティ、言い忘れてたけど‥‥‥。浴衣、すごく綺麗よ」  ケイティは顔を綻ばせ、 「本当? あなたもすごく綺麗よ」  と褒めてくれる。ケイティから綺麗と言われるなんて、天にも昇る気持ちだ。 「正直私が浴衣着ても似合わないかなって思ってたんだけど、思い切って着てみて良かったわ」  恥ずかしそうにケイティが言うものだから、私は全力で否定しにかかった。 「そんなことない!! 絶対ないから!! マジで綺麗!! 超似合ってる!! トウマだってそう思ったはず!!」 「トウマくんは凄く良い人だけど、好きとは違うかな」  俯いたケイティは、言葉を選んでいるようだった。 「実は私ねーー」  夜空に一つ、二つ、赤と青の花火が弾ける。彼女の浴衣の紫陽花と同じ色の。ケイティが口を開く前に、若い男性たちの声が沈黙を破った。 「おい、見ろよアレ。太った外人がいるぜ」 「うわっ、マジだ」  通りすがりにぎゃはは、と笑う二人組。泣き出しそうな顔で俯くケイティ。かっと頭に血が上る。 「ちょっとあなたたち!!」  男たちの方に歩いて行き、持っていたオレンジサイダーのカップの蓋をとり、一つを右の金髪の男の顔に、もう一つを左の夏なのにニット帽をかぶっている男の顔にぶっかけた。 「おめー、何すんだよ!」  頭の軽そうな金髪が怒って私の肩を掴んだ時、「やめなさい」と男の腕を掴む手があった。  先ほどの金魚掬いの店のおじさんだった。 「何だよジジイ!!」  殴りかかろうとした男の拳を手のひらで受け止め、そのまま背負い投げをする金魚掬い店のおじさん。地面に叩きつけられるチャラ男。「すみません」と私たちとおじさんに向かって謝り逃げ出した友人に置いてきぼりにされたチャラ男は、強打した腰を摩っている。 「大丈夫ですか?」  男に駆け寄るケイティ。馬鹿にされたにも関わらず、なんて優しいのだろう。チャラ男はケイティの顔をまじまじと見つめてていたが、そのうちぽっと顔を赤らめ、麒○の○島のような声で口説き始めた。 「君、よく見ると凄く可愛いね。さっきは酷いことを言って悪かったよ。良かったら今度俺とデートしない?」 「お前、さっさと消えんか!!」  強面の金魚掬い店店主に追い払われ、「愛してるよ、ハニー」と英語で言って投げキッスをしながら消えた金髪男。呆然とするケイティと私。 「あの‥‥‥ありがとうございました」    お礼を言うと、ごま塩頭のおじさんは「いや、いいんだよ」と白い歯を見せた。 「こんな揉め事は日常茶飯事だ。これは可愛いほうだ。もっとひどいのもあるからな」 「銃撃戦とかですか?」  西部劇のようなものを思い描いているらしいケイティが尋ねる。そんな騒ぎがこの小さな町で勃発したら、大きなニュースになるに違いない。 「流石にそこまではないが、荒くれ者同士の乱闘はたまにある。しかし、君は度胸があるね」  私を褒める店主。今更ながら、自分らしくない行いをしてしまったことを思い知る。だけど後悔はしていない。不思議とスッキリしていた。ケイティを馬鹿にする人間は、誰であろうと許せない。  私たちは店主に何度もお礼を言って、砂浜に戻ることにした。店主は私たちに笑顔で手を振った。
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