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うっかりの連鎖
住宅街の中にあるコンビニ。そのトイレに一人の中学生の少年が駆け込んだ。下校中に激しい尿意が襲いかかり、失禁せぬように小走りでの帰宅の途についているところであった。
少年は現代っ子らしく、小便器での立ち小便が出来ない上に、和式便器を使うことが出来なかった。通学路道中の公園のトイレには小便器と和式便器しかなかったために、コンビニで借りることにしたのだった。
この住宅街近辺は治安があまり良い方ではなく、コンビニのトイレを借りるためには店員への声掛けが必要である。トイレ前の張り紙に記載こそされているが、今はなりふり構ってられない! 少年はそのまま個室トイレへと入り、慌てながらカバンをドアフックに引っ掛け、素早く洋式便器に座り用を足し終えた。
尿道がビクンビクンと痛むまでに小便を我慢したのは生まれて初めてのこと。少年は失禁せずに済んだことを安堵し、額に脂汗をかきながら前のめりになった。安堵したことで全身の力が抜けたのである。
間に合ってよかった…… お店にはお礼としてガムの一つでも買わないと。
少年がそんなことを考えていると、コーナーラックの上に革カバーに包まれた小物が置かれていることに気がついた。誰かの忘れ物だろうか。と、思いながらドアフックに引っ掛けたカバンに右手を伸ばした瞬間、左手の肘を小物にぶつけて床に落としてしまった。
トイレの床に落としてしまった…… 持ち主に申し訳ない。少年が小物を拾い上げると、落下の衝撃でボタンが外れ、中身が飛び出してきた。
中身は拳銃だった。それも、回転式弾倉式である。警察官が使うニューナンブM60であるように見受けられた。
「モデルガン?」
少年は拳銃を拾い上げると、重量を感じた。拳銃そのものは軽いが、重心が拳銃の後方に寄っているような感を覚えたのである。近頃はこんなリアルなモデルガンがあるのか。警察官のコスプレ用の小道具かなにかだろうか。少年が革カバーに拳銃を仕舞った瞬間、ノックの音が鳴った。少年は全身をビクッとさせながら、咄嗟に拳銃を自分のポケットに入れてしまった。
少年がドアを開けると、目の前にいたのは厳つい男であった。少年は臆しながら、その男と入れ替わった。
少年が洗面台の前で手を洗っていると、店員に声をかけられた。
「あの、お客様……?」
しまった。慌てていて店員に声をかけずにトイレを借りてしまった。店員の「お前、万引きしてないよな?」と言いたげな目つきを前に全身が緊張で震えてしまう。
「あ…… その…… 漏れそうで…… 声かけるの忘れちゃいました、ごめんなさい」
「ああ、そういうことでしたか。大変失礼致しました。次からはお声掛けの方をお願いします」
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