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「今朝は始発に乗らなきゃいけないから早く出るって言ってあっただろう」
寝起きでぼんやりした妻を叱りつけて家を出る。全く使えない女だ。俺の給料で飯を食ってるっていうのに感謝が足りない。一度ビシッと言ってやらねば、そう思いつつ駅へと急ぐ。
「なんだ、えらく混んでるな」
始発に乗るのは初めてなのでいつもどうなのかはわからないが、車内はラッシュ時ほどではないにしろそれなりに混んでいた。吊革に掴まり立ったままウトウトしていると不意に近くの女が金切り声をあげる。
「やめてください!」
思わず振り向くと女は私を睨み付けていた。何なんだこの女は。文句を言ってやろうと口を開きかけた瞬間、周りの乗客たちが私を取り囲んだ。あ、この状況はマズイ、そう思ったがもう遅い。あろうことか私は痴漢として拘束されていた。冗談じゃないと叫ぶも呆気なく次の駅で降ろされ駅長室へと連れて行かれる。まぁいい、ちゃんと説明すればわかってもらえるだろう。だが駅員に呼ばれ奥から出てきた駅長の顔を見て私は愕然とした。
「鈴木……か?」
向こうも驚いたようで一瞬大きく目を見開いたがすぐにひどく冷たい表情に変わる。
「お前、痴漢までするようになっちまったのかよ。相変わらず最低だな、吉川」
なんと駅長は以前近所に住んでいた幼馴染だった。そして……。
「あの頃はさんざんいじめてくれてありがとよ」
鈴木は小学生の時、私のいじめが原因で転校した。歪んだ笑顔を浮かべる鈴木に向かい必死に言い募る。
「ち、違うんだ。俺は何もやっちゃいない。勘違いなんだ!」
「ああ、お前はあの時もそう言ってたよな。俺はいじめなんてしちゃいない。勘違いだってな。お前の勘違いはあてにならないって俺はよぉく知ってるんだぜ?」
最低な一日の始まりだ。
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