戻ってきたお客様

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

戻ってきたお客様

「あの……なんか、放送で呼び出されたんですが。」  通路ぎわで商品整理をしていた私に、男性が声を掛けてきた。  若い男性だ。  身なりは普通で、ジーンズにダウンジャケットを羽織っていた。  華衣ちゃんが放送で呼び出したお客様だろう。  離れた所から華衣ちゃんが呼んだ。 「こちらでございます!」  男性は華衣ちゃんの所へ行った。 「なんでしょう?」  尋ねた男性に、華衣ちゃんがサッと包みを差し出した。 「お忘れ物でございます!」 「え? 俺じゃなくない?  覚えないよ?」  男性は戸惑っていた。  なんだなんだ?  私たち店員はひそかに顔を見合わせて、仕事をしながら耳をそば立てた。 「いえ、あの! 正確にはお客様のお忘れ物ではなく、わたくしの忘れ物です!  先ほどお渡しするのを忘れました。」  華衣ちゃんはそう言って、包みを男性に向かってグッと突き出した。 「え?  えーと……俺にくれるってこと?」 「は、はい。  いつもご来店ご利用ありがとうございます!  いつもーーた、楽しみにしております!」  ははーん?  そういうこと?  私たちはあさってのほうを向いて、ニヤニヤした。  男性はぎこちなくも嬉しそうに礼を言って、プレゼントを受け取って帰っていった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!