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passage of time
「昨日は、ごめんね。」
娘の誕生日に合わせて、休みを取った。
カレンダーには娘が書いた派手なハートの下に私の字で〝映画館〟と書かれている。
ここ数ヶ月、仕事と家事に追われて溜まった疲れが、よりにもよって昨日、出てしまった。
酷い頭痛と眩暈で寝床から這い出せなくなった私は昨日、娘が楽しみにしていた、アニメ映画の試写会のチケットを玄関口に置いて、姉に電話を掛けた。
「ごめん。今日、時間ある? 舞のこと、映画に連れて行ってくれない?」
映画のチケットは今も玄関口に置かれたままだ。
「舞はきのう、一日ママといれて嬉しかったよ。 でもママ…ずっと泣いてるみたいだった…
もう、大丈夫?」
私は複雑な心境で娘の頭をポンっと触った。
「ありがとう…ごめんね。
今日、早く帰るから、誕生日のお祝いしようね。」
娘は目を輝かせて言った。
「え…今日も? いいの?」
姉が持って来たであろうコンビニの袋と新作のシールが貼られたお弁当の蓋がゴミ箱から除いている。
私は数ヶ月前離婚を選択したことへの罪悪感でいっぱいになった。
あんな旦那でも居たから、私は娘との時が取れていたことが離婚して身にしみる。
…分かっていたはずなのに…
まだ低学年の娘が必死に無理をしている…
「いってらっしゃい。」
久しぶりに玄関口で娘を見送ると、私はスーツに着替えて家を出る。
きのう一日の記憶が全く無い。
恐らく気を失うように丸一日眠っていたのだろう。
体が嘘みたいにと回復する変わりに、娘の誕生日をはじめて台無しにしてしまった…
「体調もうすっかり回復したので、今日から出勤できます。
…今日は定時で上がらせてもらうことは出来ますか?」
出掛けに上司に電話を入れて、罪滅ぼしが叶うことに安堵した。
ヒールを履き、いつもの場所から鍵を取る。
「あれ…鍵が無い。」
鍵が無いことに気づくと同時に、鍵穴が向こう側からガチャガチャと音を立てる。
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