「君を愛する」そう言ってくれたけど、前世を知ったとたん、冷たくなりました。

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「無理」 「無理だよね」  結婚式を迎えた、その夜。  十六歳の花嫁と二十歳の花婿は白い布で包まれたベッドの上で、睨み合っていた。  花嫁は柔らかな金色の髪に、大きな緑色の瞳の美少女。  対する花婿は赤茶の髪に、青色の瞳の彫りの深い美丈夫だ。  教会で愛を誓い口づけを交わした。  誰もが羨むカップル。  情熱的な花婿ーケヴィンは可愛らしい花嫁ーローズに一目惚れをして、ぐいぐい迫って結婚をもぎ取った。ローズが戸惑っている中、外堀を埋めて、勝ち取った結婚だった。   「詐欺だ。なんで言わなかった」 「だって、あんたが前世を思い出しているなんて知らなかったんだもん」 「語尾を可愛らしくしても、もう騙されない」 「なあ、昔は昔でも今はこんな可愛いローズちゃんだろ。だって、あんた、初夜楽しみにしてたんだろう?」 「しゃべるな。色々思い出したくない」  ケヴィンはローズを愛していた。  結婚式までは我慢、我慢と言い聞かせ、キスすら待った。  そうして念願の誓いのキッス、それから初夜。  彼はるんるんと足取り軽く、部屋に入り、そこで告白されたことに衝撃を受けた。 「だって、親たちすで持参金を使い込んで、もう返せない状況なんだ。しかも、俺、あんたが前世を思い出しているなんて知らなかったからさあ」 「お前、知っていて、よく結婚する気になったな?初夜とか、吐き気覚えなかったか?」 「うん、まあ。我慢?」 「俺は我慢できない。だが、結婚は続ける」 「え?本当か?」 「白い結婚だがな。既婚者になったことでメリットもあるし、見合いとか煩わしいことから解放される。まあ、跡取りは後でゆっくり考える。一年後に愛人をもってもいい」 「愛、人?」 「あ、お前も持ちたい?あ、でもお前、体は女でも意識は男だろ。無理だろ。それ」 「うん、ああ」  ローズはケヴィンの問いに曖昧に答えたのだが、切り替えの早い彼は肯定をとったようだ。   「じゃ、一応初夜の偽装工作をしておこう」    ケヴィンはそういうとナイフで小指を小さく切って、寝具に血をつけた。  そうして二人の結婚生活は始まった。  ケヴィンの前世はマイク。ローズの前世であるロイの同僚だった。二人はともに死線を潜った軍人であったが、仲が大変悪かった。ロイは何も考えずつっこむタイプ。マイクは念入りに計画を練って作戦を実行するタイプ。最後は、突っ込むロイに引き摺られてマイクは死んだ。  ロイはマイクに最後まで言えなかったことがある。それは自身が本当は女であり、マイクにとても感謝していたこと。それから、すまないということ。  ロイはローズとして生を受け、今度こそ女性らしく生きようとした。それこそ淑女としてお手本と呼ばれるくらい頑張った。そうして、ローズはケヴィンに出会った。ケヴィンはマイクと同じ外見をしていて、嫌な予感がして、彼女は引いていた。しかしあらよあらよと、押され、結婚に至ってしまった。  外見が似ているだけと思っていたが、ふとした瞬間に彼が話したことで彼の前世がマイクであることを確信した。その時には親は持参金を使い込んでいて、後には戻れなかった。  ローズの外見を愛しているケヴィン、黙っていればわからないと心を決めたはずなのに、誓いのキスを交わして彼女はすべてを話すことに決めたのだ。  そうして、予想通り、彼はローズを拒否した。  前世で嫌われ、しかも彼(マイク)の死の原因だ。当然の結果だ。けれども離婚はしないらしい。それにほっとしたが、愛人を持ち出され、ショックを受けた。  それで、ローズは悟った。  ケヴィンを愛してるのだと。  話さなければよかったと後悔したが、もう遅い。  ローズは胸の痛みに耐えて、結婚生活を送ることにした。 「えっと、どういうこと?」 「……もういいかって思って。一年一緒に暮らして、お前の外見だけじゃなくて、中身……いい辛い。性格も好きになった。前世とかどうでもいいかと思って」 「だ、だけど」 「お前、いや。ローズは俺のこと嫌い?そんなことないだろう?」  ケヴィンはにやにやと笑いながら聞いてくる。  マイクは物凄い生真面目な軍人だったけど、ケヴィンはちょっと違う。私が少し違うように、彼も生まれ変わって性格がちょっと変わったようだ。 「……好きだよ。好き。だから嬉しんだけど」 「良かった。だから初夜をやり直そう」 「うん。いいけど。あの、ケヴィン、もう一つ秘密があって」 「え?まだあるのか?聞きたくないような。いーや、聞くぞ。俺は。で、何?」 「あの、実は、ロイなんだけど、女だったんだ。男装軍人」 「え?あれで女。どこが?」 「女だっただろう!あんな美しい男がどこにいる!」 「いやいや、あんなマッチョな女はいない」 「……ケヴィンのことなんて嫌い。どこか行って。愛人作るんでしょう?」 「嘘嘘。冗談です。いや、ロイが女だった。知っていたよ。うん。俺」  ベッドの上でケヴィンは愛しい妻を逃さないように羽交締めする。 「痛い、ちょっと痛い。それ違うから」 「だったら逃げるなよ。ローズ」 「わかったから。わかった」 「ローズ。愛しているよ」 「うん」  こうして、「君を愛する」と言った男は、前世を知って一旦冷たくなったが、再び愛するようになった。 (おしまい)  
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