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 街はイルミネーションが輝いて、クリスマスソングが何処にいても聞こえてくる。  12月24日。  今日は、クリスマス・イヴ。  恋人達はロマンチックな一日を夢見て、家族は温かな夜を迎える準備をしている事だろう。  私は幸せを描いたどちらにも当てはまらず、朝一からキャリアウーマンの荒れた部屋を片付け。  昼休みを早々に切り上げ、セレブファミリーが集うクリスマスのホームパーティーで忙しく働いている先輩の助っ人に行き。  クタクタになった夕方からは、豪華なデザイナーズマンションに、本日引っ越してくると言う、セレブの荷物を片付けにやって来た。  家政婦派遣サービスで働き始めてもうすぐ1年。  独身、彼氏無しの私にとって、盆も正月もクリスマスも誕生日も、そんなものカレンダーの日付でしかない。  だから今日も、淡々と仕事をこなす。  本日、最終の仕事は、家具の収められた広い部屋に、山積みにされている段ボールの中身を全部片づける事。  大きなクリスマスツリーの飾りをつける事。  20時30分までに届く荷物を受け取る事。  天井の高い、白と茶色をメインに配色された室内は、ドラマや映画に出てくるようなお洒落な部屋。  オレンジの間接照明が、ゆったりとした温かい空間を演出している。  まだ新しい匂いのする部屋に一人で居ると、自分が引っ越してきたような感覚に陥る。  自分が住むアパートはこの部屋のキッチンほどしか無いけど、妄想するくらいは許されるよね。  人がいない事を一応確かめると、独り言にしては大きな声で、独りごちる。  「うわっ、すごっ。この食器、全部ハイブランド。このバカラのグラスでハイボール飲んだら、コンビニで売ってるのでも味が違うんだろうなぁ~。」  大きな食器棚に、私なら何の料理を盛り付けるか妄想しながら、次々と高級な食器を片付ける。  「うわっ、このタオル。この間セレブが紹介してたフワフワのシルクタッチのオーガニックコットンのだ。これで顔拭いたら、肌のくすみまで取れそうだわ。」  真っ白なタオルをそれぞれのサイズに分けて、バスルームに仕舞う。  段ボールを開ける度、雑誌やTVでしか見たこと無いような高級な日用品が現れて、まるでクリスマスプレゼントを開けるようなワクワクがやってくる。それにいちいち感想を言いながら、妄想を巡らす。  山積みになっていた段ボールを全部開けて、残るは、クリスマスツリーを飾るオーナメントが入った段ボールだけ。  明らかに輝きが違うオーナメントを飾り付けながら、妄想するのは幸せな自分じゃ無くて、1年前の自分。  それは妄想じゃ無くて、思い出だ。
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