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「濡れちゃいますよ」
「んっ……既にいっぱい濡れてるけどっ……」
「雨、止みそうに無いですしね……どこか凌げる場所があればいいんですけど」
右頬を包んだ純真の手のひら。指で耳の輪郭をなぞられて、白夜は猫のようにくすぐったそうな表情を浮かべる。小さく跳ねた肩と笑声。
今すぐに抱き締めたいのが本音だからこそ、やれ喫茶店だレストランだのは選択肢に入れない自分。
(なんて言うか、俺ってかなり情けない……)
純真の浅い溜息。白夜はそれを兎のように耳を立て、聞いていたらしい。
「あるよ?」
「へ?」
「ついてきて」
「はい」と、ケロッとした顔で返されたボチャクロウ。
引かれた手。彼女は自分の傘もささないばかりか、純真の傘にも入らずに歩き出す。
そうして、濡れるのも気にせず御機嫌に鼻唄を歌う姿に庇護欲が湧き上がるから。
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