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「もっと素直に甘えてくれてもいいんですよ」
「だめッ……そんなことしたらわたっ、わたしッ……、ばる君を壊しちゃう、からッ……」
「ははっ……意外に臆病な泣き虫さんのようで」
「へっ?」
軽々しく持ち上げられたかと思えば、勢いそのままに膝抱っこをされる。予想だにしなかった純真の行動。白夜は驚きの余り、彼を凝視しながらきょとんとしていた。
「どんな白夜さんでも大好きです。この胸に抱く気持ちは、ちょっとやそっとじゃ壊れません」
その濁った瞳の中に咲いた笑顔は、やっぱり太陽のように眩しいばかりでーー彼女の雨を晴らすから。
「信じて下さい、白夜さん……俺はあなたを何処へも置いていかないです」
だからひとりで結論に突っ走る前に、俺と一緒に手を繋いで歩いてくれませんか?
親指が涙の跡を辿り、彼女の涙を拭う。今にも砕けそうなのを堪えた表情。刹那、がばっと思い切り抱き着かれ、今度は純真が驚かされたようだ。
「すき……大好き、ばる君ッ……」
白夜の生温い吐息が耳に触れる。それだけならまだしも、囁かれた台詞が大好きとは堪ったもんじゃない。もっと会話を引き出したいのに、これ以上は理性が崩壊してしまいそう。
(ある意味、風雅の時より試練過ぎるだろ。ちくしょうッ……)
そんな男心、純粋の塊と化した彼女を前にして言える筈もなく。
「白夜さんはほんとにズルい人なんだから……」
濡れた髪を撫で、それ以上は喋らないでと言わんばかりに塞いだ唇。雨音がリップ音に呑まれていく。
『コケェ〜。ココッ、コゥ〜』
そんな生々しい音を浴びながら、黒い物体がひたすら純真の靴を突く。しかし相変わらずお熱いふたりなようで、ボチャクロウは今日も今日とて、暇を持て余すばかりだった。
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