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Teeming Rain【雨過天晴の兆し】
一方、昼時の某高級旅館。広縁の窓を強く叩く雨。ボチャクロウもさすがにこんな雨では……とでも思ったのだろうか。いつもの喚き声を上げずに、灰色に染まった景色を眺めながら丸くなっている。
「星司さん」
「何だよ」
「また浮かない顔してますよ。どうしました?」
「なんでもないって。放っとけよ」
そんな中、純真と星司は悄然としながら昼食を取っていた。
奏は今日も朝から消え、これは好機だと純真は昨晩の闇蛍屋での話を彼に語ったのだが……
(星司さんって機械的だとか、ポーカーフェイスだとか言われてるけど。存外、素直な人だよなぁ……)
いつまで経っても浮かない表情の星司。そればかりか、視線も合わせたがらない。露骨とまではいかないが、何も聞かないでくれと言わんばかりの態度。
純真はそっと箸を置き、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
そうして、鏡の前。髪を整え、服装を整えて、身支度をして。そこへ静かに寄って来たボチャクロウの鶏冠を撫でる。
「今日も散歩に行くのか?」
「ええ、まぁ」
「そっか。気をつけろよな」
淀むばかりの空気。星司の素っ気ない態度が答えなのだと純真は嫌でも悟り、その腹を括った。
「あの、星司さん」
「何?」
「神社、一緒に行きません?」
「何で?」
「ちょっとした気晴らしになるかもしれませんし」
「こんな雨で?」
星司の怪訝な表情。それ故の不信感を隠さない眼差し。純真は微苦笑で誤魔化して、彼の上着を取った。
「実は星司さんにね、紹介したい人が居るんです」
「紹介? 誰だよ?」
「奏さんには内緒にして下さいね。『こんな大仕事を前に現抜かしてる場合か』なんて説教されたら、堪ったものじゃないので」
愛想100%の爽やかな笑顔。星司はそこに負けを見て、渋々純真から上着を受け取る。こいつはこいつで随分と計算高いな。と、顰め面を浮かべられていること。純真は気付かずにボチャクロウを抱えた。
「じゃあ、行きましょうか」
「おう」
純真の微笑が残像となり、彼に憂いを刻む。廊下に響く足音はバラバラでリズムそのものが違った。
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