21人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼女は星司さんに対して自分の仕事を全うした……たったそれだけの話ですよね」
優しい笑顔が却って、星司の傷を撫でるから。彼は一気にやりきれなさに歪み、このまま謝り倒してしまいと。そんな気にさせられた。余りにも軽率だった、どうしてああしてしまったのかと、罪と罰が彼を自壊へと導いている。
「……悪いッ……悪かった、バル。俺ッ」
「全く気にしてないし、今後もしないと言えば嘘になりますけど、ここは俺の強がりを通させて貰えませんか?」
「お前は優し過ぎるッ……いくら仕事とは言え、自分の女を寝取られて平気な奴がいるのか?
感じてない訳じゃねぇだろ? 俺に対して、苛立ちや憎悪をッ……!!」
「俺が仮にそれを感じていたとしても、星司さんには何の関係もないので、とやかく言われたくはないですね。
それに、ヒメが言ってたことだから。闇蛍屋では不良が優秀、そうじゃないと輝けないからって……俺はそれを叶えてあげられなかった。そして、これからも叶える気は全く無い。
それが彼女からしたら、羽根をむしり取られて光ることも出来ない、人気蛍としての尊厳を奪う行為だと理解していたとしてもです」
その点、星司さんはきっと、客として彼女の誇りを穢さないようにしたんだって……そう信じてますから。
気が気じゃなく、取り乱した星司を制した眼光。それは戦慄を煽る程に、彼の彼女に対するひた向きな想いを隠さなかった。雨空の裏、静かに燃える太陽の如き橙色の双眸。
「だから、生産性のない自責はもう止めにしてもらっていいですか?」
この任務、貴方がそんな中途半端では、闇蛍屋の少女達は誰一人として救えませんから。
ふと差し出された手。星司は奥歯を噛み締めて、見ないようにしている。
地面を叩く雨音だけが絶望感を掻き立てるように重く響く。妙な沈黙、純真は澄ましたような溜息で一蹴した。
最初のコメントを投稿しよう!