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「これが闇蛍屋と言う背景じゃなければ、俺は貴方を思いのままにぶん殴っていたでしょうね」
「それが本音だろ?」
だからお前の気が済むまで殴れよ、と。ぶつかった視線が純真に訴えかけている気がした。
そこから漏れ出す情けなさに目も当てられない。けれど、退っ引きならない状況に持ち込んだのは自分だと、彼はそこから目を逸らさずに。
「俺の彼女はヒメじゃないです。そして、風雅も……俺なようで、そうじゃない。所詮はあの幻想を崩さない為の役者にしか過ぎないんですよ」
「人間、そんな簡単に割り切りがつけられるもんかよっ……」
「それですよ、星司さん」
「それ?」
「その人間らしさの歪曲、貞操観念の欠如を年端もいかない少女達に強いて、本来在るべき幸福を壊すのがあの幻想に潜む闇です。
任務抜きにしたって、心底許せないに決まってるじゃないですかッ……」
純真の表情が歪む。歯痒さに剥かれた牙、握る拳は震えていた。
(本当にどこまでも真っ直ぐな奴……)
それを見、星司は苦笑を潜めて溜息を溢す。自責や後悔の念が消えた訳じゃないけれど、純真にそれの暖和を求めること自体が間違いだと踏んだからだ。
かと言って、仲間税に甘えるつもりもない。今は自責より自分が出来ることを全うしようと。彼は彼で、腹を括った。
「その中でも、セナはまだまともな奴なんだと思う。人間味があるっつーか……子供らしさはあったかな」
「あぁ……彼女は確かに、そうですね。かなりの頑張り屋さんな感じは伝わりました」
「けど、お前の女は違ったよ」
振り切った覚悟は、真剣なものとなり。純真に向けられた彼の顔は鋭く、静かな剣幕らしきものを放っている。
それに圧されたのか、純真の表情はふとした驚きに砕けた。
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