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「あんまり話せるものでもなければ、話すことでもないから。さくっと手短に済ますけどさ」
「何です?」
「アイツ、大嫌いだってさ。セックスは」
純真は苦虫を噛み潰したように顔を顰める。それでも後戻りは出来ないと、星司はそこから視線を外さず口を開いた。そこにさっきまでの情けない姿は皆無だ。
「お前の言う通りだよ。本人も悪いことだって自覚があるから、否定的な言葉しか出てこないんじゃないかなって」
「否定的な……?」
「寂しいし、何より……虚しいよな。身体は簡単に繋がれるってのにさ、そこにぶら下がってる感情はそう簡単に埋められない」
今となっては人形を相手にしてるみたいで空虚感が凄かったわ。
やりきれなさや嫌悪を刻むように吐かれた星司のそれに、純真は顔を沈めたまま応えなかった。
そんな彼に「悪い、彼女と楽しめよ。紹介サンキュ」と、肩を叩いて星司は足早に石段を降りていく。
その去る背に刻まれた傷心。生々しいにも程があると痛感した上で、押し殺すしかない本音。
割り切るしかない。頭では存分に理解してるのに、いざ現実を焚き付けられたら膨れ上がる嫉妬、憎悪、嫌悪。
ヒメと白夜が別人? 違う。相違点に目をつけて、どんなに切り離した所で所詮は同一人物だ。
ひとつの命で、ひとつの身体。互いに役者なんて詭弁で割り切れる程、出来た惚れ方なんてしてない。
ただ束縛し合える関係性でもなければ、結局の所は互いに仕事だ。
(改めて、闇蛍屋と言う背景が憎たらしい……)
あの幻想は少女達を確実に蝕んでいる。それは役抜きが出来ない役者のように。
(白夜さんは壊れてない。まだ、まだ大丈夫だからっ……)
好きだ。白夜が好きで好きで、どうしようもない。一分一秒でも早く闇蛍屋から救い出して、今ある柵から解放してあげたい。
はやるばかりの思い。自戒で堪えるのもやっとだ。
(悩んだって仕方ない……方法論は何であれ、少女達を救う。それしか道は無い)
『ココ?』
自分の足元で大人しく佇むボチャクロウを抱き上げて、純真は憂鬱を吹き飛ばすように首を振り、前を向く。
ふたりぼっちの時間に邪念は要らないと笑顔を溢して、白夜の元へと足を走らせるのだった。
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