忘れ物

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涙でぼやける視界の先に小さい白い箱が見えた。 私はその箱をそっと手にとり胸に抱きしめてから、ゆっくり箱のふたを開けた。 中に入っていたのはカケラみたいな小さな白い石。 私は携帯に『バニシングツイン』と文字を打った。 画面には『妊娠初期に双子だった赤ちゃんが一人になってしまうバニシングツインはよくあり母体に吸収されていると思われるがその原因は明らかになっていない。ある少女の脳腫瘍から歯や髪が出てきた事がありそれはおそらくはバニシングツインの影響ではないか』という内容が表示された。 この白いカケラは私の中にいた愛子さんだ。 お母さんのお腹の中で一緒で、私が食べた姉妹。ずっとこのまま私の中に忘れ物として置いておいてくれれば良かったのに。 「お誕生日おめでとう」 きっと、愛子さんが言われたかった言葉だったんだろう。 「お母さん、私がお腹にいる時双子って言われなかった?」 ティッシュで涙を拭いていたお母さんは手を止めて驚いた顔で私を見た。 「何で知ってるの?」 やっぱり。 「何となく」 お母さんは棚にある小さな引き出しから手帳を取り出した。 その手帳は『母子手帳』と書かれてある。 最初のページに貼ってあるモノクロの写真にクリオネみたいなものが2個並んでいた。 「これしかないんだけど…。次の検診の時には一つになっててね」 私はその2個並んだクリオネを指でなぞった。 「はっ、お父さんがケーキ買ってくるって言ってたわ!どうしよう」 急に慌てだしたお母さんに私は笑顔で言った。 「ガトーショコラは1日置いた方がおいしいから」 愛子さんの凛とした表情を思い出す。 17歳、愛子さんが私から卒業を決めた様に、私もこれからの自分を決めなきゃいけない。 お父さんも帰ってきたらちゃんと言おう。 「お誕生日ありがとう」と。 私は愛子さんの忘れ物を口に入れゴクリと飲み込んだ。 ーおわりー
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