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「嫌です。誕生日なんてどうでもいいし、産んでくれって頼んだ訳じゃないし、なんで感謝しなきゃいけないんですか?意味わかんない」
私は軽く家政婦を睨みつけた。
「あれ?納得できませんか?じゃあ私の出会いに感謝して一緒に作るのはどうですか?」
「はぁ?何で私があなたに感謝しなきゃいけないんですか?」
「私はあなたが生まれてきてくれた事に凄く感謝しています。あなたが生まれて来てくれたから今日出会える事が出来た訳ですし、だから私はあなたに料理を作る。お互い出会えた事に感謝しましょうよ」
家政婦は銀色のボウルを私に差し出した。
「はい、ここに薄力粉とココアパウダー35グラムずつ計って下さい。計ったらこの振るいでふるってやかんの隣りに置いてあるボウルに入れてくださいね」
「え…私、手伝うなんて…」
「そういえばお名前『あいこ』ちゃんって言うんですよね?私の名前も『あいこ』って言うんです!なんだか運命感じません?凄い偶然ですよね」
私の言葉を遮り、組んだ手を口に押し当て顔をほんのり赤らめる家政婦を見て、私は血の気が引いていった。だって同じ顔に同じ名前なんて…偶然ってレベルじゃない。運命?いや恐怖だ。
そういえば、ドッペルゲンガーって聞いた事がある。自分とそっくりで、自分がそれに出会うと…死ぬ…んだっけ。
やっぱり、死にたいなんて言ったから…。
「あれ?あいこちゃん、私の話聞いてました?小麦粉とココアパウダーを35グラムずつですよ?」
これは、私の願いが叶ったって事だよね?
だって死にたいって言ったし。
じゃあ、なんでこんなに怖いんだろう。
私は自分の意思が無くなった人形の様にもうひとりの『あいこ』の指示通りに動いていた。
渡された銀色のボウルに映る私の顔は歪んで半分に分かれた様に見えた。
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