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海沿いを走る幹線道路を見下ろすような丘の上に建ち、周りは地上の喧噪も届かない閑静な住宅地である。宅地開発で古い建物が次々取り壊される中、父の憲一が買い取って個人宅にすることで築年数を更に積み重ねることができたという。歴史に興味のない裕にとってはどうでも良いことだったが、父には歴史的建造物を自らの手で守ったという自負があったらしく、来客のたびに邸宅の来歴を語って聞かせていた。山口が出入りするようになったのは父が亡くなった後だが、自慢に巻き込まれなくて幸いだったと思う。
広いエントランスにはリビング、ダイニングとキッチン、来客用のサロンとそれぞれに通じるドアがある。山口に車いすを押してもらってリビングに入ると、自分が倒れた瞬間を思い出した。
「大丈夫ですか」
声をかけられて、少し息が上がっていることに気がつく。二年前のように視界が少し暗くなっているような気がした。
裕が倒れたのは朝で、ちょうど母の介護をするヘルパーが訪れる時間だった。そのヘルパーに助けてもらわなければ、今頃ここにはいなかっただろう。
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