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ふと後ろを振り返った時、慣れ親しんだ我が家がやけに大きく見えたのを覚えている。四歳違いの兄と並んで写真を撮った時のことで、肝心なところで後ろを向いたから、気を削がれた父が怒りだした。
荒れた庭を抜けて二年ぶりの我が家と対面した時、深崎裕は浮かび上がった古い記憶に苦笑した。それは十歳にも満たない頃の記憶で、六十八歳の心持ちと奇妙に重なった。久しぶりの我が家を前にして懐かしさがこみ上げただけではない。小学生だった頃の自分と、今の自分の目の高さが近いのだ。
「鍵開けてもらえますか」
裕は後ろに立つ青年に鍵を渡して言った。山口というケアマネージャーで、付き合いは七年になる。学生時代に柔道をやっていたという彼はヘルパー上が
りで、他の業界を知らないまま過ごしてきたと自嘲気味に言っていた。
山口は鍵を受け取って緑色のドアを開け放つ。漏れ出てきたのは二年分の埃の臭いだ。一切窓を開けられなかったから仕方ないが、玄関を前にして進むのが億劫に感じてしまう。
「上げますよ」
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