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それから私たちは付き合い始めた。バイト先にもお客様にも内緒で。
彼は相変わらずモテるし、イライラさせられることも多かったけれど、意外にも『つまみ食い』をすることは無くなった。そう言うと彼はふてくされた顔をする。
「なんだよ。俺、信用ねえなぁ」
「だって。前はホントに据え膳食わぬは……だったじゃない」
「それは彼女がいなかったからでショ。今はほのかがいるんだから、そんなことしねーよ」
こんなに素敵な人が、私なんかに一途でいてくれる。私はなんて幸せなんだろう。
それから三年の交際を経て、私たちは結婚した。子供が出来るまでは共働きで、と思っていたらそこから五年、子供が出来なかった。不妊治療を考え始めた矢先、ようやく妊娠。私は三十歳になっていた。
「里帰り出産の間、遊び歩いたりしないでね」
「わかってまーす。飲みに行くくらいはするだろうけど、浮気なんてしないから。安心して身体休めてな。入院したらすぐ知らせろよ。飛んで行くから」
はいはい、と笑って私は実家へ戻った。軽口を叩いていても、彼の浮気なんてこれっぽっちも疑ってはいなかったから。
その後、陣痛が始まったので連絡すると、彼は本当にすぐにやってきた。そして私の手を握り懸命に励まして、産まれた時には涙を流して喜んでくれた。
「ありがとう、ほのか……!」
私はこの時の彼の涙を一生忘れないだろう。
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