貝原凪沙

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貝原凪沙

 私は絶対、不幸だと思う。  私はお金持ちの家に生まれた。  何不自由なく育った、と言われることは多い。でも、金持ちには金持ちなりの苦労があるって、誰にもわかってもらえない。  小さい頃から習い事ばかりさせられて友達と遊ぶことなんかできなくて。   「公立小学校の子供となんか仲良くする必要はないわ」    それが母の口癖。ここは田舎の地方都市なので、私立の小学校なんてない。都会から嫁いできた母にはそれが信じられないみたいだ。   「私立の中高一貫校に行くこと」    これが私たち姉弟に与えられた至上命令だ。    ところが人生そうそう上手くいくもんじゃない。一つ上の姉は受かった。翌年私は落ち、その翌年一つ下の弟は受かった。つまり落ちたのは姉弟のなかで私だけ。  その瞬間私は完全に不出来で親不孝の娘と成り果てたのだ。    とはいえ私にとっては公立中学も高校も、ぬるま湯に浸かっているようなもので居心地はとても良かった。いい大学に行けという母からのプレッシャーも私には向けられなかったし。  やがて進路を決める時期になると、母に言われた通りに東京の女子大への推薦を決めた。母が卒業した大学だ。   「偏差値は高くないけれど、花嫁修行にはもってこいの大学だから」    なんだそれ、と思わないでもなかったが、東京に行けるのは単純に嬉しかった。  最初の二年間は厳しい女子寮で真面目に暮らし、後の二年は東京の医学部に通っている姉と一緒にマンションで暮らした。ちなみに弟は京都の大学に行ったので東京には出て来なかった。良かった。姉弟三人で住むとかやってられないもの。    
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