貝原凪沙

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   姉は私のお目付け役を仰せつかっていたようだ。卒業したら就職することなく見合い結婚させられるのが決まっている私は、『清い身体』のままでいなければならない。  だが勉強に忙しい姉はその役目を放棄していた。   「わかってるでしょうね。これは自己責任よ。自分一人で生きていく覚悟があるのなら勝手に遊びなさい。そうでないのなら、自分で自分を律するのよ」    姉からはそう言い渡された。  そんなの、私だってわかってる。何の資格も能力も無い私には専業主婦になるしか選択肢は無い。それならば、清い身体を守るに決まってる。  だけど裏を返せば、『処女』を守ればそれでいいってこと。私は最後の二年間は飲みに行ったりクラブに行ったり合コンに行ったりと、寮にいる間にできなかったことを楽しんで過ごした。    その中で、好きな人もできた。よく行っていた『時遊』という居酒屋のバイト店員、渡良瀬さん。一つ年上の彼はワイルドな見た目なのに面白くてファンも多かったけど、通い詰めて顔と名前を覚えてもらい、電話番号やLIMEの連絡先も手に入れた。  彼は誘えば寝てくれるって言われているのは知っていた。だから私も誘ってみたいと思ったこともあるけれど、それだけは我慢した。清い身体を守るために。  その分LIMEでの会話を楽しんだ。たわいのない、返事がしやすい話題を向け、しつこくしないように気をつけながら時々、悩み相談なんかして。  彼はいつもすぐにレスをくれたし、悩みにも真剣にアドバイスをくれた。彼とのトークは私の宝物だ。今も時々読み返している。    女子大の卒業式を間近に控え、最後に一度だけデートをしてくれないかと言ってみた。身体は捧げられないけれど、普通のデートを彼としてみたかったのだ。  返事は、彼女できたからごめん、だった。彼女がいるなんて知らなかったから、ショックだった。そのまま一晩中泣き明かした。  翌日、お幸せに、と返信して彼への想いは封印した。楽しかった東京での思い出と共に。
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