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5.二人の秘密
「エディ、ひとつ聞いてもいいか」
「何──?」
「あの時、君が手首を切ったのは──」
言い終わらぬ内に、エディの顔が強張った。
カウンターからは離れた席である。周りには音楽も流れている。誰にも聞こえる筈はなかったが、田代は声を落とした。
「あれは狂言だったんだろう」
エディは目を伏せて、田代の視線を外らした。すぐに答えようとはしない。
「今更こんな事を聞いて、ひどいと思う。だけど言わせてくれ」
あえて田代は続けた。
エディの胸の奥を抉じ開けるような真似だとは、わかっていた。
だが、塚本の死というどうしようもない現実を前に、田代を何もかも知りたいという気持ちにさせていた。
「俺は塚本君のマネージャーから、極秘に聞いたんだ。君の──自殺未遂の事を──もちろん口止めされてな。
俺以外にもあと何人かは、嗅ぎつけたヤツがいただろうけど、結局表沙汰にはならなかった。
君の事務所が、裏から手を回して全部のマスコミをシャットアウトしちまったからだ。
天下の榊原プロだ。その位はできたさ。逆らえば、俺たちは他の仕事をさせてもらえない。そうだろう」
そう言われてエディは顔をあげた。
唇が何か言いたげに動く。
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