忘れもの

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 次の日、気晴らしに近くの公園まで出かけた。家で本を読んでいたが親の小言がうるさくなり外に出たのだ。 「読書ばっかりしてないで、別のこともしなさい」父と母は口癖のように言う。僕は学校で部活に入っていないし、外で遊ぶのも好きではなかった。そんな息子を心配する気持ちはわかるが、本を読むことがいけないことのように言われるのが気に入らなかった。  読書は僕の唯一の趣味であり、一種の存在理由でもあった。それを否定されたくはない。  ベンチに座り、辺りを見ると一人でいるのは僕だけだった。滑り台で小さな子どもが2人遊んでおり、それを父親と母親らしき人が優しい目で見つめていた。隣のベンチでは、女子学生が昨晩のドラマの話題で盛り上がっていた。小学生が鬼ごっこをして遊んでいる。  それを見ていても特に寂しい気持ちはなかった。大勢の中で1人という状態には慣れていたからだ。  中学校でも高校でも僕には友人がいなかった。本を読んでいる時が楽しかったし、充実した時間だった。  そんな自分を変えなければと思った時もある。でも、無理をして流行りのものを見たりしても心に響くものはなかった。笑いたくない時に笑うのも苦痛だった。  こんなことでは将来、苦労することはわかっている。社会人に求められるものは、コミュニケーション能力、はみ出さない程度の個性を持つこと、好意を持たれる意見を言うことだ。高校生の立場でもそれはなんとなくわかる。そうやって大人というものになっていくのだ。  悲しいけど、それが現実。僕の力で変えられるものではない。
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