【序章】拉致される花嫁

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【序章】拉致される花嫁

皇帝からの求婚に(あらが)える者などいない。  しかも、舜殷国(しゅんいんこく)皇帝劉赫(りゅうかく)は、誰もが見惚れるほど見目麗しく、武術にも()けている。 年頃の女であれば、自身の上に突然降りかかってきた幸運に、涙を流して喜びそうなものだが、(はん)雪蓉(せつよう)だけは違った。 「死んでもお断りよ!」  あろうことか、皇帝からの求婚を本人の前でばっさりと切り捨てたのだ。 「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」  漆黒(しっこく)駿馬(しゅんめ)(またが)り、雪蓉を見下ろしながら劉赫が目を細めて言った。 淡々とした口調だが、明らかに怒っている。 「ええ、十分理解しているわよ。聞こえなかった? もう一回言ってあげる。あんたの妃になんか、死んでもならない! 殺すなら殺しなさいよ、変態下衆野郎(へんたいげすやろう)!」  お察しの通り、この雪蓉という女、天女が舞い降りたかのように可憐(かれん)で美しいが、口が相当悪い。 見た目に騙されて求婚し、撃沈(げきちん)した男は数知れず。  雪蓉の暴言に、武官たちがざわつく。皇帝にこのような口をきいたら、首を即刎(そくは)ねるのがしきたりだ。 だが劉赫は、怒る武官たちを冷静に静め、やけに慣れた様子で雪蓉の暴言を聞き流す。
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