19話

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19話

 オレ達の関係は遠くもならなかった代わりに近付きもしていない、もしかしたらこのままずっとこの関係は変わらないのだろうか?そんな風に思わなくもない。  もしもそれが香川の願いなら、オレはそれを受け入れられるだろうか。  今はまだ答えは出ない、だから今日も夕飯を作り二人して何もなかったような顔で飯を食う。 「今日は炊き込みご飯にしてみたんだ~」 「炊き込みご飯か」 「うん」  そう、炊き込みご飯なら余れば翌日弁当に回せると思ったのだ(冷凍してもいいけど)  香川の為に作ったりはしない、が、上手く出来るようであれば弁当を二人分作っていってもいいかもしれない、なんて思っている。  いつものように、テレビから向かって左横からこたつに入る、そして天板の上のリモコンに手を伸ばす、と思っていたらこたつに入らず香川が近寄ってきた。 「持ってく」 「え、あ?そ、そう?ありがと……」  トレーにご飯茶碗と味噌汁の入ったお椀を乗せていたところだったので、それを二人分乗せて香川に渡す。急な接近に心臓が小さく跳ねる。  背中を見送ると、おかずの豚バラ大根を大皿に盛り付けた。 「おかず、一つの皿でいいよな、適当に取って……小皿使う?」 「いいよ、それで」  洗い物が増えるし、と続けるので意図が伝わったと嬉しくなる。大皿の他には個別で大根と豆苗のサラダ。  「……今日は大根一本買ってきたのか?」 「……ごめん……安くて……」  だって大根は生でも食べられるし、煮物や鍋にも入れられる、副菜には大変便利な野菜なのだ……つい、二本買ってきたとは言えなかったが当分は大根料理が続くと思ってほしい。 「謝らなくていいって、大根好きだし……」 「ほんとはこんなに大根だけにしない方がいいんだろうけど……」 「ん?あぁ、被ってるって事?」 「うん」 「……オレはあんま気にしないけど……っていうか、いつもこんな感じじゃないか……?」  気付かれていたとはちょっと意外だ、いや、気付くか……。  色んな食材を使って料理をしたいのは山々だが、どうしても一つの食材(野菜)から何品か作ってしまうのだ。いや、これは普通なのかもだけど。 「オレはもう少し色々……食卓の彩りとかバランスとか……考えたいの」 「……オレ相手に食卓の彩りとか考えてくれなくてもいいけど……でも考えてくれてありがと、大根被っててもさ、大根に限らないけど味付け変えてくれてるじゃん、全然被ってもいいよ、経済的だろ?……やっぱりオレも食費出すよ?」 「いいって、米は全部香川がくれたので賄ってるし、この間だって野菜と調味料色々くれたじゃん……オレが作りたくて作ってる訳だし……」 「……また米なくなりそうになったら言ってくれれば送って貰うから」 「ありがと」  香川の親戚が農家らしく、米や野菜を貰えるそうだ。なので年末年始帰った時、帰宅に合わせ野菜や調味料など色々送ってきた、それをお裾分けして貰っている。ほんとに、それは助かる。 「……夕飯作ってもらってるって言ったら、今度から色々送ってくれるって……最近父さんが畑借りたらしくってさ、それで余計に色々あるみたいだから丁度いいって」 「そっか、いいな、実はオレも野菜作るの最近興味あるんだよな……」 「……は?」 「いや、なんかさ、自分で作ったものを自分で料理するのってさ……何かいいなーって」 「……へぇ……」  感心したように香川が言うので何だか照れる。 「冷めちゃうから、食べよ」 「うん、いただきます」 「はい、召し上がれ」  俯くと少し前までは長かった前髪をよく払っていたけれど、今は短くなり耳が見える位だ。短くなった事に直ぐに気付いたけれど、その時は何も言わなかった。  多分だけど、成人式前にカットしたのだろう。そいえば成人式の時の写真、見せてもらってない……後で見せてもらおう。  香川はまず炊き込みご飯から食べ始めた。調味料の分量を間違えなければほぼ失敗はないので、炊き込みご飯は楽だ。  今日はツナ缶を使ってみた。炊き込みご飯レシピは色々あるけど、やはり簡単に出来るものだとありがたい。具はツナとえのき、人参。  おかずがあるので濃い目にはしてないが、これだけで食べると薄いかも、どうだろう。そんな気持ちで香川を見れば、視線が合った。 「うまいよ」 「……うん」  微かにだけど、香川の表情が柔らかくなる。多分、好みの味付けになっているのだろう。 「豚バラ大根は明日の方が味染みて美味しいと思うんだ、タッパーに分けとくから持って帰って明日食べて」 「いいの?」 「うん、そうして欲しいし」 「まじか、うれしい」  大根が二本もあるので、おかずは二人分以上作ってある。明日もこれだし、明後日に持ち越してもいい。  まだ染みきってはいないが、煮込まれた大根は甘じょっぱい味付け。明日は白飯で食べたい、染みた大根、それの汁をご飯にかけて食べるのだ。絶対美味いやつだ。  豚バラも柔らかく煮込まれている、香川は濃い目の味付けが好みだからもしかしたら少し薄いかも……でも、明日になればもっと染み込んでいるからきっと好みに近くなっているだろう。  こうやって香川の好みの味付けを考えながら作るのは楽しい。いつも想像しながら作る、食べてくれる香川が美味しいと笑ってくれるだろうか、そんな風に考えながら。  多分、料理が好きになっていったのは香川がいるからなんだと思う。不純な動機かもしれないが、それでもほぼ毎日作り続ければ上達だってしてくる。  レパートリーが増えるとアレンジなども入れられるようになる、要領良く作れるようにもなってきた。  味噌汁も大根、それに炊き込みにも入っている人参。人参も日持ちするので余らせてある。  サラダは葉物が欲しかったけど高かったので、豆苗。勿論根元は残してある、これ一体何回位使えるのかいつも分からない……三回位は食べられる?って思うけど狭いキッチンにずっと置いておくのもと思って二回使って大体捨ててしまっている。
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