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47話
「絶対、オレの仕事量増えましたよね……」
げんなりしながら里中が渡された資料を見て愚痴を溢す。渡した香川も同じような表情だ。
「喜べ、仕事量が増えたのはお前に任せられる仕事が増えたって事だ、良かったなー、一人前だ」
「……先輩最近当たりが強いっすよね……僻んでるんですか?オレに彼女が出来たからって」
「オレはそんなに器の小さい男じゃない、ほら、分かんないとこは教えるから」
「はーい」
午後の仕事は眠くなる事もあるのだが、最近はそんな事言っていられない位に忙しい。忙しい、というのは少し語弊がある。
仕事が立て込んでいて忙しいのではなく、リミットまでに仕事が終わるか分からず忙しいのだ。
「……はぁ、先輩の代わり来ないんですもんね……」
隣のデスクで項垂れる里中を見るとまだ一年目なのに可哀想だとは思うが、そんな事も言っていられない。
「まぁ、補充っていう意味では来るけど……オレの仕事はお前に預けとくからなー……でもフォローはみんなしてくれるよ、がんばれ」
「先輩年始すぐいなくならないですよね?まだいますよね?」
「いるよ……オレは立ち上がったら行く事になってるから……まぁそれでも2月位からは行って部屋も見つけたいし……」
「それ会社がやってくれないんですか?」
「あー……そこまでは……補助が出るだけだ……」
「クリスマスまでに落ち着かないですよね」
「落ち着かないだろうなー、年末年始の休み前はいつも忙しいし」
「……」
「がんばれ」
里中は「はい」と弱々しい返事をしてペラペラと資料を捲り始めた。
関西支社が出来る事は随分前から社内では決まっていた。だけどその人選が決まったのは12月に入ってから。
予想はしていたが香川も営業総務の一人として異動が決まった。だけど、それは会社として形が出来てからなので、今はまだ本社で引き継ぎ業務を続けている。
来期、4月からは中途ではあるが新入社員も入ってくる。その前には香川も大阪へ引っ越さなければならない。やる事は色々ある。
異動といっても予定では関西支社が落ち着くまで、新入社員の教育が粗方終われば戻ってこられる事にはなっているが期限が決まっているようで、はっきりとは決まっていない。
もしかしたら…… 1、2年は向こうかも知れないよな……。
サラリーマンなら仕方ないとは思っている。結婚している訳でもないし、恋人がいる訳でもない。でも、と思う。
離れたらこの気持ちは変わるのだろうか。
今までは会わないと言っても、隣に住んでいたので物理的距離は近かった。だけど、それがなくなったら。
「先輩、ここの数字なんですけど……」
「ん?あぁ……どれ?」
ぼんやりと画面を見ていた香川の意識が仕事へと戻る。
そんな事を考えたって仕方ない。
余計な事を考えるのは止め、パソコンの画面から里中に視線を移した。
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