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「津田先生の靴は綺麗だったーーー
雑木林の泥やーーー草なんかも全く付着していないーーーー
ーーーおそらく大学で何者かに殺害された津田先生はそのまま自分の車に乗せられーーー
この雑木林に遺体を遺棄されたーーーー
津田先生の車はこの雑木林の一角に乗り捨てられていてーーーー犯人はここから歩くか、バスに乗ったのか、、、タクシーで帰ったのかーーーーそれは現在捜査中だーーーー」
恐怖が足元からやってきて、俺の首をさわさわと触る感じがした。
俺らの通う京帝大学は数年前から、セキュリティ上、カードキーを持っている人間でなければ入る事は出来ないーーーー。
津田先生を殺害した犯人は大学にいつも通り居て、今もいつも通りを装い、大学生活を謳歌しているのだ。
「君達2人は津田先生の妻ーーー美緒さんと同じカフェでアルバイトをしているそうだね」
澤田さんの口から発せられた湯川さんの名前に、思わず肩に力が入る。
ーーーー薄々自分で気づいているが…俺は湯川さんの事をただの先輩としては見れなくなっていた。
事件の事を考える度に、湯川さんのことばかり考えてーーーー心配になってしまう。
「ーーー何か聞いてたりしないかな?
例えば夫婦仲が上手くいってないとかーーー美緒さんを狙ってる客の男がいるとか」
俺と要は顔を見合わせ、首をそれぞれ横に振った。
「津田先生と湯川さんが一緒にいるのをーーーーその日見たんですけどーーーー
仲は良さそうでした」
澤田さんにそう告げると、澤田さんはメモ帳を開き何やら書き込んだ。
「美緒さんが大学に来た理由は聞いてる?」
「津田先生が携帯を忘れたのでーーー届けに来たって話していました」
この瞬間、俺は澤田さんが、湯川さんが犯人であると疑っているのではないかと考える。
確かによりによってこの日ーーーー津田先生が殺された日に湯川さんが偶然大学に居たのは怪しいと思われて当然かもしれない。
でも違う。
湯川さんはーーー人を殺せる様な人じゃない。
「湯川さんはーーーーー」
言いかけて澤田さんと目が合う。
「ーーー人を殺せる様な人じゃありません」
俺はきっぱりと言い切った。
湯川さんは人を殺したりなんてーーー絶対にしないーーーー。
優しくてーーー誰にでも分け隔てなく話てくれて、ミスをしてもきちんと教えてくれて頭ごなしに怒ったり不機嫌になったりはしない。
そんな湯川さんが人を殺すなんてーーーーまして、自分の夫である津田先生を殺すなんて、ありえない。
「ーーーーそっか」
澤田さんは困った様に微笑み、瞼を軽く伏せた。
「ーーーありがと。
ーーーもし何かわかったらーーー連絡して。
ーーーコレ、俺の名刺ね」
俺と要は澤田さんからきちんと両手で名刺を受け取り、それをそれぞれ財布にしまった。
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