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「ーーー湯川さん…疑われてんのかな…」 スターパックスコーヒーを後にした澤田さんの広い背中を見ながら、要はポツリと言った。 「ーーータイミング悪かったなとは思う。 ーーー運悪く津田先生が殺された日にーーー普段居ない湯川さんが大学の中に居たって事がーーー… もしこれがサスペンスドラマだったらさ、やっぱり怪しいなって思うじゃんーーー」 俺は言ってから、実際に人が1人死んでいるのにドラマと例えた事に申し訳なさを覚えた。 「そうだよなーーーちょっと出来すぎてるっていうかーーー偶然にしてはーーって警察なら考えるかもな」 要もそう言って頷いた。 「ーーーーあのさ、葛西」 「うん?」 「前店に来てたさーーー黒縁メガネでぽっちゃり体型のーーー桂太(けいた)さん…覚えてる? 赤身明星のーーーせいやみたいな人ーーー」 言われて、俺はすぐにその人の顔を思い出す。 何だか本当にお笑い芸人のようなーーー明るい人だった。 赤身明星のせいや…って、めちゃくちゃしっくりくる… 「あーーー…要の叔母さんの息子さんって人? ーーーその人がどうかしたの?」 要は俺と目が合うと、一瞬話すのを躊躇う様に視線を斜め下に向けた。 「その人ーーー湯川さんの事知っててさ… その人湯川さんより3つ歳上だから…湯川さんが大学一年の頃に大学四年生でーーーー ……俺コレ…さっきは言えなかったんだけど… 桂太さんは湯川さんが学生の頃は……青木と付き合ってたって言うんだよ…」 「ーーーーーーー…!」 要の唇から放たれた余りに予想だにしない言葉に、俺は声を発せずに目を大きく見開いた。 湯川さんがーーー青木先生と付き合ってた? あのーーーおそらく女嫌いで、研究以外見向きもしないーーー青木先生とーーー? 俺は要の話を、信じる事が出来ない。 「ーーー誰かと間違ってるんじゃない…? …失礼だけど……あの青木先生だよ? …俺は憧れはするけど…湯川さんが青木先生と付き合うかって考えたら……微妙じゃない?」 青木先生を、すごい人だとは思う。 最短コースの34歳で教授になり、数年後にはアメリカに行くのでは無いかと囁かれている青木先生。 ただーーーーその言動や行動はやや人間味に欠けるしーーープライベートの話は一切しない事もあって、冷たい印象を受ける。 人柄だけで言えば、俺は津田先生の方が好きだ。 話しやすいし、気さくで、渋くてカッコいいおじさんーーーのイメージ。 「俺もそう思ってたんだけどさーーー…桂太さんは絶対付き合ってたって聞かなくてーーー… なんでもーーーー青木って周りから色恋沙汰で揶揄われたりするのが嫌なタイプでーーー… 湯川さんと付き合ってる事をひた隠しにしてたみたいでさ…… 桂太さんとデート中にあった時も『絶対言わないでくださいね』ってめっちゃ怖い顔で言ってきたっぽくてーーーー 俺それ聞いたらーーー青木と湯川さんが付き合ってたって話も、本当な気がして来ちゃってさーーーー」 要に言われたにしては珍しく、俺はその考えが、ものすごく腑に落ちた。 確かに青木先生なら、先輩の桂太さんにもはっきりと『この件は他言無用で』とか、言えそうだ………
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