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「「山本さん」」
「うわぁ!!!!!!」
エッジハウスの従業員入口に入ろうとした山本さんは、俺と要2人に後ろから声をかけられて悲鳴を上げた。
山本さんは悲鳴をあげた事が照れ臭かったのかツヤのあるストレートのボブヘアを手櫛で整えた。
「あーーーー…びっくりした………
葛西とーーー紺田ーーー…
…いきなり出てこないでよ……
……2人とも今日……バイト休みじゃーーーー」
「山本さんに」
「聞きたい事があって」
「怖いわ…!!!
そして近い!!!!」
俺と要をしっしと手で追い払うようにしてから、山本さんはため息をついた。
山本さん…山本ちなみさんは、湯川さんや俺らと同じ京帝大学の出身でーーーもう10年以上この店で働いている。
それこそ学生の頃にアルバイトとして採用された山本さんは、正社員の試験を受けて今はこの店の社員として働いている。
湯川さんはアルバイトだが、山本さんと仲が良く、お互いを名前で呼び合い、よく休憩室でお喋りをしたり、2人でランチに出かけたりなんて話も耳にする。
「ーーー…もしかして…美緒の事…?」
「「はい」」
声を揃えて返事をした俺達を見て、山本さんは呆れた様な顔をした。
「ーーー…ははーーーん……
……アンタ達2人が美緒にくびったけって話は本当だったわけね………
美緒はそれなりに元気だよ…いや…嘘…!
……元気じゃ無いんだろうけど…気丈に振舞ってるーーーー
この間電話した時…声は普通だったよ…」
山本さんは困ったままの顔で教えてくれる。
そりゃそうだよな。
元気じゃ無くてもーーー職場が同じ友人の前でなら、気丈に振る舞いざるを得ない。
「湯川さんってーーーーー
ーーー青木と付き合ってたんですかーー?」
俺は要が突然質問を切り出した事に驚き、山本さんに向けていた顔を即座に要の方へと向けた。
「ーーーアンタ…それ誰から聞いたの…?
ーーー警察?
ーーーーてか…ちゃんと先生つけなよ、先生…!」
山本さんはその質問を予想していた様に受け止めつつ、要が青木先生を呼び捨てにする事を嗜めた。
「いえーーー知り合いの先輩からーーー…
ーーーすみません…どうしても…気になっちゃってーーーー」
要は山本さんの指摘を完全にスルーしながら、おずおずと申し訳なさそうに答えた。
山本さんを前にバツが悪そうな顔をしている要が、何だか新鮮だった。
いつもならバイト中に山本さんに注意されると「だりー…」みたいな顔をしてるのに…。
「ーーー隠してるわけじゃないからいいんだけどさ…
ーーー付き合ってたよ?
ーーーでも美緒の方から別れて、津田先生と付き合ったの」
俺と要は山本さんの目を見つめたまま、黙ってしまった。
やっぱり桂太さんの言っていた事はーーー本当だったんだーーーー。
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