3

1/7
前へ
/97ページ
次へ

3

「「山本さん」」 「うわぁ!!!!!!」 エッジハウスの従業員入口に入ろうとした山本さんは、俺と要2人に後ろから声をかけられて悲鳴を上げた。 山本さんは悲鳴をあげた事が照れ臭かったのかツヤのあるストレートのボブヘアを手櫛で整えた。 「あーーーー…びっくりした……… 葛西とーーー紺田ーーー… …いきなり出てこないでよ…… ……2人とも今日……バイト休みじゃーーーー」 「山本さんに」 「聞きたい事があって」 「怖いわ…!!! そして近い!!!!」 俺と要をしっしと手で追い払うようにしてから、山本さんはため息をついた。 山本さん…山本ちなみさんは、湯川さんや俺らと同じ京帝大学の出身でーーーもう10年以上この店で働いている。 それこそ学生の頃にアルバイトとして採用された山本さんは、正社員の試験を受けて今はこの店の社員として働いている。 湯川さんはアルバイトだが、山本さんと仲が良く、お互いを名前で呼び合い、よく休憩室でお喋りをしたり、2人でランチに出かけたりなんて話も耳にする。 「ーーー…もしかして…美緒の事…?」 「「はい」」 声を揃えて返事をした俺達を見て、山本さんは呆れた様な顔をした。 「ーーー…ははーーーん…… ……アンタ達2人が美緒にくびったけって話は本当だったわけね……… 美緒はそれなりに元気だよ…いや…嘘…! ……元気じゃ無いんだろうけど…気丈に振舞ってるーーーー この間電話した時…声は普通だったよ…」 山本さんは困ったままの顔で教えてくれる。 そりゃそうだよな。 元気じゃ無くてもーーー職場が同じ友人の前でなら、気丈に振る舞いざるを得ない。 「湯川さんってーーーーー ーーー青木と付き合ってたんですかーー?」 俺は要が突然質問を切り出した事に驚き、山本さんに向けていた顔を即座に要の方へと向けた。 「ーーーアンタ…それ誰から聞いたの…? ーーー警察? ーーーーてか…ちゃんと先生つけなよ、先生…!」 山本さんはその質問を予想していた様に受け止めつつ、要が青木先生を呼び捨てにする事を嗜めた。 「いえーーー知り合いの先輩からーーー… ーーーすみません…どうしても…気になっちゃってーーーー」 要は山本さんの指摘を完全にスルーしながら、おずおずと申し訳なさそうに答えた。 山本さんを前にバツが悪そうな顔をしている要が、何だか新鮮だった。 いつもならバイト中に山本さんに注意されると「だりー…」みたいな顔をしてるのに…。 「ーーー隠してるわけじゃないからいいんだけどさ… ーーー付き合ってたよ? ーーーでも美緒の方から別れて、津田先生と付き合ったの」 俺と要は山本さんの目を見つめたまま、黙ってしまった。 やっぱり桂太さんの言っていた事はーーー本当だったんだーーーー。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

178人が本棚に入れています
本棚に追加