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「ーーー貴女の車に設置され…スマートフォンにも入れられているGPSーーー…
それにーーーお家には防犯カメラならまだしも……各部屋に監視カメラがありますよね?
ーーー貴女の様に若くて美しい妻を持っていると津田先生も不安だったのは分かるのですが…
ーーー僕としてはちょっと行き過ぎた束縛では無いかと思うんです。
ーーーー貴女は何とも思わなかったんですか?
いくら愛する夫からでも、これだけの束縛を受けたらーーー大抵の女性は嫌になると思いますけど」
澤田さんはまだ表情を変えずに、白い紙を湯川さんに向けている。
俺と要はお互い驚いた顔を見合わせた。
あの紳士的なーーー大人の余裕たっぷりのダンディな津田先生にーーーそんな一面があるなんて思いもしなかった。
「ーーーそりゃ…最初は…嫌でしたけど…
…もう10年も一緒にいるので慣れました…
ーーーそれに束縛は愛されてるって証拠じゃ無いですか…?…束縛されないのも……それはそれで寂しいと思いますけど……」
「束縛されないとは、青木先生の事ですか?」
澤田さんの質問に、俺も要もおそらく呼吸を止めていた。
そしてそれは、湯川さんも同じく思えた。
湯川さんは驚いた様に目を大きくし、固まってしまった。
「学生の頃ーーー貴女は青木先生とお付き合いされていたんですよね?
貴女は青木先生に一方的に別れを告げて、津田先生と大学を卒業して直ぐに結婚されたそうじゃないですか」
澤田さんは湯川さんに見せた紙を、几帳面に四つ折りにして胸のポケットに入れた。
「ーーーあの人は付き合ってる時から私に関心が無くてーーー…付き合ってても意味ないと思ったんです……それで別れて……
夫と付き合いました……」
湯川さんはそう答えると帰ろうとしたのか、澤田さんにくるりと背中を向けた。
俺も要も慌てて壁の影に身を隠す。
「でもーーー今となってはどうでしょう?
ーーー津田先生より遥かに有名になった元カレの青木先生を見てーーー後悔はしませんでしたか…?
収入だって当然の様に違ってくるーーー
ーーーそれに付き合った時は40代になったばかりだった津田先生も、今は50代に差し掛かり身体の衰えも気になってくるーーー当然夫婦生活にもズレが生じるーーーー
青木先生じゃ無いとしてもーーー津田先生以外の男性に目移りしたとしたらーーー
ーーー貴女は当然その束縛が嫌になってくるし、津田先生が邪魔にーーーーー」
「憶測でものを言わないで下さいッ!」
湯川さんのあげた声に、俺も要も肩をびくつかせた。
湯川さんがここまで感情的に怒るのを、俺も要も初めて目の当たりにした。
「ーーー青木澪とは……別れてから一度も会っていないしーーー口も聞いていないんですーーーー
それにーーー私は夫を愛していますーーー!
ーーー…私の言葉が信じられないならーーーもう来ないでくださいッーーー!」
湯川さんは一礼して、ツカツカと歩き出すと車に乗り込みエッジハウスの駐車場から出て行った。
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