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「うーん…むしろ俺が疑ってるのはーーー
……津田先生の方でな…
この事件を調べていたら…ちょっと気になる他の事件というか事故があって…それに津田先生が関わってたんだよ」
「それってーーー」
自分で言いかけた言葉を要は慌てて飲み込む。
澤田さんが僅かに眉間に皺を寄せた。
「知ってるのか?」
「あ……伊賀…って人の…件ですか…?」
困っている要に、俺は助け舟を出す。
澤田さんは頷き「やっぱり有名な話なんだな」と呟いた。
「10年前かーーーー伊賀翔也という生徒が工学部の外階段から転落死した。
警察は事件と事故の両面から捜査をしたが、津田先生が『伊賀が外階段から足を踏み外すのを見た』と証言をしてーーー結局事故という事でその件は処理されたーーー。
俺は津田先生が殺された理由にーーーもしかしたらこの事故が関わっているんじゃ無いかと思っているんだ…
伊賀翔也は湯川美緒の幼馴染でーーー父親のいない伊賀を、湯川美緒の両親は何かと可愛がっていたらしい。
しかも伊賀はその日、湯川美緒と食事に行く約束をしてたそうだ。
だが不幸にも階段から転落し死亡ーーー。
落ち込む湯川美緒に声をかけた事がきっかけだったのかーーー湯川美緒が青木澪と別れ津田先生と付き合ったのは丁度この頃らしい。
俺はどうも津田先生がーーー…湯川美緒に執着しているのが気になってなーーー…
湯川美緒と食事に行く伊賀翔也に…嫉妬したんじゃ無いかなと思うんだよ」
澤田さんは一気にそこまで話し、「まぁ…死人に口無しだから憶測になってしまうんだけどな」と付け足した。
あの津田先生がーーー湯川さんに嫉妬ーーーー
「でも嫉妬されるなら…湯川さんと付き合っていた青木先生じゃないですか…?
伊賀って人はあくまで…湯川さんにとっては幼馴染なわけですよね…?」
俺が言うと、困った顔で澤田さんは腕を組んだ。
「それがそうでも無さそうだぞ…
ーーー青木澪は本当に研究研究、研究男でーーー湯川美緒が連絡してもほとんど連絡も返さなかったらしい…
湯川はそんな青木に不安を覚えるし、付き合ってるのに中々会えなくて寂しいしで悩んでいて…
ーーーー…その頃には2人の中は冷え切っていたんじゃないかと湯川美緒の友人達は口を揃えてる」
要も、声を出さずに黙っている。
という事はーーーーー
「ーーー湯川美緒はその時…青木澪で無くてーーー伊賀翔也に心奪われかけていたとは思わないかーーーー?
ーーー1番近くにいた幼馴染と何かのきっかけから恋に落ちるなんて…よく聞く話じゃないか」
澤田さんの問いに、俺も要もだんまりを貫き通す。
湯川さんの気持ちは湯川さんのものだ。
軽はずみにーーーそうですねとは、同意出来ないーーーー。
「ーーーでもやっぱり憶測だからな…さっき湯川美緒が言った通り…!
悪かったね…君達のマドンナを魔性の女の様に考えてしまって」
澤田さんはそういうと俺らに背を向けた。
タバコを入れた左のポケットに、手を入れている。
「今日はこれで失礼するよ。
…今度は大学で会うかもだけど……嫌な顔しないでくれよ…!」
澤田さんは振り返ると、俺と要に軽く手を振った。
湯川さんから言われた事を先ほどから気にしているのかーーー澤田さんの背中はなんだか寂しげだった。
警察というのは、辛い仕事なのかもしれないと、俺はこの時、初めて思ったのだった。
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