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心臓の鼓動が意識しなくても自然と早くなった。 10年前ーーー津田先生は伊賀という男性を殺したーーー仮説であるはずのこの話が、俺にはすごく信憑性のある話に聞こえた。 監視カメラに、GPS、小型の盗聴器ーーーそうまでして湯川さんの行動を監視したがった津田先生ーーーー その湯川さんを伊賀という男性が売春をさせようとしてるーーーもしくは、その男性自身が、売春の相手になろうとしているーーーー それを知った津田先生が売春を止めようとしてーーーー咄嗟に伊賀という男性を階段から突き落としてしまうのも、理解できる気がした。 「復讐ーーーって事ですかーーー? 誰かがーーー伊賀って人を殺された復讐にーーー津田先生を殺したって事ですかーーー?」 山本さんは頷いた。 「あの人はそう考えているみたいだったよ… でもそう思われても仕方ないのかもーーー私もその澤田さんって人から聞いて… 津田先生が美緒をそこまで束縛してるの初めて知ったけど… 普通だったらそこまで束縛しないと思う…だからもしかしたら…その美緒が売春させられそうになった事実が津田先生の頭の中にずっとあって…… それでそういう異常な束縛をしてしまったんじゃ無いかなって気もする…… 私だったら耐えられないよ……家にいるのに監視されて……気が休まらないよ……」 俺も「そうですよね」と同意した。 俺が湯川さんの立場でも耐えられない。 それにーーー心配とは言えど監視されている事で、逆に全く信用されてないんだなと、悲しくなって気持ちが離れてしまう気さえする。 「そのーーー津田先生が殺されたのが伊賀って人を殺された復讐だとしたらーーー ーーー山本さん的に怪しいなって思い浮かぶ人はいるんですか?」 俺が聞くと山本さんは再び視線を上に向けて考える素振りをしてから、首を横に振った。 「いないよ、いない。 でもどうかなーーー比較的伊賀先輩と親しかった私ですら、伊賀先輩が売春に関わってたなんて知らなかったしーーーー 伊賀先輩の素顔を知らずに、津田先生が伊賀先輩を殺したって思ったとしたらーーーー津田先生を恨む人なら沢山いるかもねーーー 伊賀先輩…人気だったからーーーー」 山本さんはそう言うと、社販で買ったであろうカフェオレをすすった。 「でもーーーー」 「でも?」 「青木は無いと思う」 山本さんはきっぱりと言い切ると、カフェオレをテーブルに置いた。 スタイリッシュな、個性的なデザインのカップは、オシャレな山本さんらしいデザインだ。 俺は黙って、山本さんの次の言葉を待った。 「青木は伊賀先輩と全く親しくなかったし…そもそも人に執着しないからーーー 実際に亡くなった時もーー…別に死んでも関係ないって感じの態度だったしーーーー葬式もお通夜にも来なかったもん… 研究で忙しいとか言ってーーーー まぁ、青木に至っては親しい人なんかいないんじゃないのって感じだけどさ…!」 山本さんは困った様に笑顔を作った。 どうやら俺が憧れる青木先生のあの無愛想な態度は、学生だった頃から変わらないらしい。
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