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「ーーーーーお疲れ様です…」
「ーーーーお疲れ様」
パーマをかけた黒い髪に、青白い肌。
黒縁メガネの奥の一重瞼は涼しげというよりは、いつも冷たそうだ。
青木先生はそのまま俺の横を通り過ぎ、玄関のすぐ横にある自動販売機の前で立ち止まった。
俺はこの瞬間まで、自分がこんな行動をするとは予想もしていなかった。
俺は自分でも、驚きの行動に出る。
「ーーー青木先生……」
「…?……ーーーん?」
先生は自動販売機を見ていた顔の、半分を俺の方に向けた。
「ーーーーー……どこかにお昼ーーー
ーー……一緒に食べに行きません…?」
「ーーーーーー…」
青木先生は俺の顔を見たまま、沈黙する。
言っておきながら、俺は自分で何言ってるんだと頭の中で強烈な自問自答を始める。
そして、自問自答をして直ぐに、変に思われたに決まってると後悔する。
要と湯川さんの事で感じてるモヤモヤをーーー少し晴らしたい…そんな気持ちで唐突に、思いつきで青木先生を食事に誘ってしまった。
アイツと飲み会……!?
……あの青木だぞ?
葛西…!…どうかしてんじゃねぇの!?
ほんの数ヶ月前ーーー俺が青木先生を飲み会に誘おうとした時の要の反応がこれだった。
来てくれるわけないだろ!
仮に来てくれても…何話しゃあいいんだよ!?
その時の要の声が蘇って、俺は本当にその通りだと思う。
ましてこのーーー津田先生が亡くなった後にーーーー絶対来てくれるわけないのにーーーー
「いいね。ーーー何食べたい?」
「え?」
「ーーー何、食べたい?」
青木先生は自分の声が俺に届いてないと思ったのか、同じ言葉を区切ってもう一度繰り返してくれる。
俺は笑顔を作ったまま、固まってしまう。
何食べたいーーーーー…
そう言われるとーーーそれすら出てこない…
「ーーーー牛丼…とか…どうですか…?」
苦し紛れに言って、また俺は後悔する。
青木先生って何食べるんだ…!?
そもそも俺は、先生が食事をしている姿を見た事がない…
というか…もうなんかーーー食事しなくても生きていけそうな気さえする。
しかも青木先生が1番食べなそうな牛丼とか提案して…俺は馬鹿かも知れない…
「いいね。俺「杉屋」がいいな。
ーーー白衣、脱いでくる」
「……え……?
……あ……!……はい…!!!」
まさかの返答に、俺は拍子抜けしてしまう。
牛丼の案を受け入れてもらえたーーーそう内心ホッとしつつも、青木先生と食事をすると考えたら急に緊張してきた。
青木先生はさっき歩いてきた廊下を、早足で戻っていく。
細身で、やや猫背な背中。
その背中はなんだか、要とよく似ている。
今更だが、髪の毛のパーマも茶髪と黒髪の違いだけで、要と青木先生はシルエットがなんとなく似ている。
中身は、全然ーーーぜんっぜん違うのだけど。
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