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「おまたせ」 突然後ろから声をかけられた俺は、慌てて青木先生の方へと振り返った。 先生は黒い色のコートを羽織っていて、いつも白衣を着ている姿しか見た事ない俺はそれがすごく新鮮に感じた。 先生と俺は大学を出て、歩いて10分ほどの駅ビルの中に入ってる杉屋に行くことにした。 「ーーー牛丼とか…食べるんですね…… …断られると思ってました……」 大学の玄関でカードキーをかざし、扉から出たところで青木先生に話しかける。 本当に断られると思っていた…青木先生が牛丼を食べてる姿が…想像できない…… 「そう? ーーー若い頃は夜遅くなると…いっつも杉屋に行って牛丼持ち帰って食べてたよ… ーーーなんかーー…不健康だったーーー」 そう言った青木先生は、珍しく少しだけ笑っていた。 「持ち帰ってたんですか?」 俺がそう聞き返すと、青木先生は俺の質問の意味を読み取ったかのように頷く。 「うん。 夜遅くなるとさーーー酔っ払いとか多くてガヤガヤしててーーー苦手なんだ、雰囲気」 ふいんき、と言いそうな所をちゃんと、ふんいき、と言うところが青木先生らしい。 苦手ーーーなのかと、なんだか俺は先生をいつもより少しばかり人間らしく感じた。 嫌い、ではなく、苦手。 「あーーー…分かります…。 俺も苦手です…絡まれたら…どうしようとか思っちゃいます」 先生は小さく声を上げて笑う。 「心配性なんだね…いい事だよ… ーーーーー葛西君大人しそうだから、確かに絡まれそうなきもする」 「よく言われます」と、俺は本当の事を言って照れ臭くなり、髪の毛を何気なく触った。 なんとなく、先生から名前を呼ばれた事が嬉しい。 「あの刑事さんも」 先生の発した言葉に、俺は咄嗟に呼吸を0.0何秒か止める。 刑事さんーーーーー 「葛西君には声をかけやすいって言ってたよ」 俺は澤田さんの顔を思い浮かべる。 やっぱりーーー澤田さんは青木先生にも何度か話を聞いているんだ。 「ーーーあんなにしっかりした体して…眉毛もキリッとしてーーー男らしい感じだけど…きっとあの人は繊細な人なんだろうね」 青木先生はそう言って澤田さんの姿を思い出すように遠くを見つめた。 切り出してみて良いのだろうか…津田先生のーーー事件についてーーーー。 俺は迷いながらも、その話題を出す為に息を吸い込んだ。 「先生も…澤田さんーーーあの刑事さんから…色々聞かれてるんですか?」 俺の問いに、先生は顔を俺の方に向けて頷いた。 「めちゃくちゃ聞かれてる。 今のところ警察にはーーー俺が犯人だと思われてるんじゃないかな」 あっさりと答えられ、俺は先生がよく生徒達から、マッドサイエンティストとか、サイコパスとか言われてる意味が分かった気がした。 淡々とした顔で「自分が犯人」と軽々しく口にするこの感じ。
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