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「ーーー疑われるの…嫌ですよね……
湯川さんも相当参ってる感じでしたーーー…しーーーー」
言いかけて、しまったと思った時には、もう遅い。
「湯川?」
「ーーーーーー…」
ヤバイ。どうしよう。
なんで湯川さんの名前出したんだ俺…!
いきなりすぎだ……せめて…もう少し話して…話し込んだあたりじゃないとダメだろーーー!
「ーーーあぁ…湯川って……美緒ね……
ーーー………葛西君…その澤田さんから聞いたんでしょ……
ーーー俺が美緒とーーー
ーーー津田先生の奥さんと…付き合ってた事」
メガネの奥の涼しげな瞳に顔を覗き込まれた俺は、無意識に背中を逸らしてしまう。
「…あ……はい……!
……澤田さんから事情聴取の時に聞いてーーー…
……俺…その…
……湯川さんとバイト一緒で…!
……この間澤田さんが湯川さんにめちゃくちゃ詰め寄ってるの見ちゃって……
湯川さんも疑われて…流石に頭に来たんでしょうね……!
すごい怒って…帰っていっちゃいました……!」
咄嗟に澤田さんに罪をなすりつけてしまったが、青木全然と湯川さんが付き合ってた事を最初に俺に話したのは要だ。
ごめんなさいと、澤田さんに心の中で詫びる。
「ーーー刑事って何でも調べるんだな……
でも普通に考えて俺が1番怪しいでしょ?
津田先生に元カノを奪われてーーー
同じ大学の同じ教授でーーーって考えたら怪しいもんね。
あ…ーーーーもしかして、葛西君……
……伊賀の事も聞かれた…?
…俺はめちゃくちゃ聞かれてるから」
俺は背中と脇の下に冷や汗ダラダラの状態で首を縦に振り、今が夏じゃなくてよかったと思った。
聞いてないーーーと言えたら良いのかもしれないけどーーー聞いてないと言っても本当は聞いているのがバレる気がする。
俺は自分があまりーーー嘘が上手いタイプじゃない事を知っている。
「でもーーー澤田さんは伊賀さんの件に関しては…津田先生を疑ってたみたいでしたよ…!
なんかーーー
津田先生が『事故です』って証言をしたらしくてーーーー」
青木教授は時間を気にしたのか、チラリと腕時計に目をやった。
「そうそう…証言したのも津田先生だけどーーー救急隊に連絡したのも先生で…
ーーー先生が伊賀の事については…応急処置とか含めて全部やってくれた感じだったんだよね」
先生に言われ、俺は澤田さんや要の話は事実だったのだと改めて思う。
応急処置までしてて、救急隊も呼んだのならーーー亡くなった伊賀さんを最初に見つけたのが津田先生と言うことになるーーーー
それなら…澤田さんが津田先生を怪しむのも無理はないのかもしれない。
津田先生の湯川さんへの異常な束縛を含めて、怪しいと思っているのだろう。
「先生はーーー伊賀さんと親しかったんですか?」
先生は俺の問いに、わざとらしく目を大きくした。
「ーーー親そうに見える?」
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