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6
青木先生と初めて食事をしてから、俺はその後も3回、先生と一緒に食事をした。
湯川さんの話はあれ以来しなかったけど、青木先生のイメージは食事の時間で会話をする中で大分変わった。
無口で冷たいーーー何を考えているかわからない男性ではなく、研究熱心なだけの不器用な男性なのだと知り、俺が先生に以前感じていた話し掛けづらさのようなものは、綺麗さっぱり無くなってしまった。
この間は、大学の食堂で先生と食事をした。
色々な人が俺と先生が向かい合って食事をしているのを、物珍しそうな目で、或いは好奇の目で、或いは信じられない!とでもいうような目で見つめていたけれど、俺はそれが全然気にならなかった。
「葛西!!!」
廊下を歩いていた俺は突然後ろから声をかけられ、足を止めた。
振り返ると鎖骨につくくらいの髪を一本に束ねた人物が歩いてくる。
雨谷だ。
同じ学部で、入学式の時たまたま知り合った雨谷明。
よく喋り、よく笑い、人に対して全く物怖じしない感じは羨ましい限りだなと感じる。
そしてこの雨谷明、見かけによらず食べる事が大好きで、かなりの大食いだ。
特に食べ物の中ではピザが大好きらしく、大好きすぎてピザ屋でアルバイトをしていると言っていた。
男の俺でも彼女の話を聞いていて胸焼けするくらいよく食べるのに、なぜか細身で、俺はいつも雨谷の食べたピザの栄養がどこに行ってるのかいつも不思議に思う。
かなり歳の離れたーーー確か10歳上の兄がいて、その兄は物理学を専攻して大学院へと進学し、最近就職したと話していた。
「この間、青木先生とご飯食べてたよね!?」
雨谷は首元が詰まったブラウスの上に、深い青色のニットを着ている。
首元の部分のブラウスの襟にはレースが施されていて、俺はそれをオシャレだなと思う。
「食べてたよ。
ーーー最初話し掛けづらい人かと思ったんだけどーーー喋ったら、普通にいい人だった」
俺はそう言ってから「そのブラウスいいね」と雨谷に告げる。
なんとなくだけど、湯川さんも好きそうなデザインだ。
「ありがと!
ーーー先生ってめちゃくちゃ一匹狼な感じじゃん!?
私びっくりしちゃってさ、どうやって仲良くなったの!?」
興味津々という様子で、雨谷は質問した。
雨谷の大きい目は、大学の入学式で見かけた雨谷の父親にそっくりだ。
母親とは口もとや骨格が似てないわけでは無かったけどーーー雨谷は全体的に父親似だなと思ったのを思い出した。
そして雨谷の兄と雨谷は全然似てなくて、俺は最初年が10歳も離れている事もあって、あの細い目の人を雨谷の兄だなんて思いもしなかった。
「ご飯に誘ったんだ。
ーーーなんとなく…声かけただけだったんだけど」
「何話したの?」
「何ってーーー色々ーーーー…」
俺は口籠る。
いつも思うが、雨谷は話のテンポが速い。
津田先生の話とか、まして、青木先生の元カノの話なんて言えない。
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