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「ママが言ってた」 「ママ?」 俺は母親とそういう話をした事が無く、思わず聞き返した。 ママは雨谷の、俺の思い浮かべる母親の事か? それとも…バーのママ、みたいな感じのママか…? 角ハイボールのCMの…木川遥みたいな… 雨谷は俺の目を見て不思議そうに、こっくりと頷いた。 「私、お兄ちゃんとパパが違って」 「はい!?」 雨谷の小さい口から突然放たれた言葉に、俺は突拍子も無い声を上げた。 「お兄ちゃんがお腹の中にいる時にね、ママとパパは初めて出会ったんだって。 お兄ちゃんのお父さんは、両親にママとの結婚を反対されてーーーお兄ちゃんを堕ろすように言ったんだって。 でもママはそれができなくてーーーーそんな時に私のパパに会って、結婚したの。 ーーーだからおじいちゃんとおばあちゃんには、お兄ちゃんもパパの子供って事になってる」 「ちょ……ちょっと待って……」 一気に、あまりに衝撃的な話を聞かされ、俺の頭はフリーズ寸前になる。 パパ…父親が違う?  子供を堕ろせと言われてーーー 別の男性と結婚して 今度その男性との間に出来た子供が…… ……雨谷でーーーー まだ女性と付き合った経験が無い俺は、この雨谷の話を、なんとかかんとか理解しようとする。 現実にそんな事起こり得るのかーーーー? 映画やーーードラマじゃないしーーーー 「でね、ママが言ってたの。 ママはその人の事ーーーお兄ちゃんのパパの事を嫌いになれなかったんだーーーって」 雨谷はまん丸い、くりくりとした瞳で俺を見上げる。 俺はなんてリアクションを取るのが正解なのか分からず、口元に思わず手をやってしまう。 「ーーーそんな話いつ聞いたの……?」 「18になってから。 私が成人したらーーー言うつもりだったらしくて」 淡々と答えて、雨谷は一本に束ねた髪を何気なく触った。 「ーーー…お兄さんは知ってるわけ…? ーーーそのーーー自分が……今のお父さんの子供じゃ無い事」 雨谷は「うん」と細い首を縦に振る。 そんなアッサリ……。 「ーーーそう…なんだ…… ーーーえ…と……流石にお兄ちゃんのお父さんには会った事ないでしょ……?」 俺はこの質問を、自分がこの話についていけてない事を誤魔化す為に雨谷にしている。 「ーーーうーん……たぶん。 私もお兄ちゃんも、そのお兄ちゃんのパパが誰かって事は言われてないの。 でもーーーお兄ちゃんにはいるみたい。 もしかしたら…って人がいるって、お兄ちゃんこの間帰ってきた時に話してた」 大変じゃ無いか……! そんな予想されるような関係なのか!? 現にそのママは雨谷のお父さんと、結婚してるのに! 「私もね、この人かなーって思う人がいるの。 この人がママの…嫌いになれなかった人なのかなーって… 中学の時の事思い出してーーー ーーーーふと思った人がいたんだよね」 雨谷も気づいてるのか…!? 10歳差の兄なのに…そんな物心ついた雨谷が気づくような関係ってーーーー…
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