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「一回だけなんだけどね、私がそう感じたの。
ーーーーママはきっと…あのおじさんの事を嫌いになれなかったんだろうなーって思った瞬間があったの。
だから青木先生の恋人だった人も、もしかしたらだけどーーー酷い事されても、先生の事嫌いじゃないかもよ?」
俺は段々と自分の眉間に皺が寄ってくるのが分かった。
なんで?
だって雨谷の母親は、現に雨谷の父親と結婚してるんだろ?
その人のーーーお兄さんの父親を嫌いになれないまま結婚したってーーーそんなの雨谷の父親に失礼だ。
「お父さんは何も言ってないの…?
ーーー不満とかーーー俺だったら嫌かな…」
俺は言葉にしてから、ハッとして雨谷の顔色を伺った。
雨谷は大きくてくりくりした瞳を俺の方に向けて、不思議そうな顔をした。
「言ってないよ?
ーーーあ、どうだろ…昔はもしかしたらなんか言ってたのかも知れないけどーーー
てか、葛西って意外と嫉妬深いんだね」
「!!!(嫉妬深い…!)」
雨谷の言葉に、少なからずショックを受ける。
みんなそんなに寛大なのか!?
「でもパパも嫉妬深いのかな…
悠兄はそう言ってたから、そうかも…
ママ、自分で気づいてないんだろうけど…魔性の女感というか、小悪魔感あるからなーーー…」
魔性の女……小悪魔感……
なんじゃそりゃ………
驚く俺の事なんて見向きもせずに、雨谷は考える様に顎に手を当てた。
この考える時に顎に手を当ててしまうのは。雨谷のクセらしい。
「ーーー…でもいいのかな…」
「え?」
俺が呟くと、雨谷が聞き返した。
「結果的に雨谷のお母さんはーーーその人と生きていくのを選ばずにーーー
お父さんを選んだって事だから…それはそれでいいのかもしれない……」
正直何とも言えないし、モヤモヤが残る様な気もしたが、その人と出会ってしまった事は変えられないしーーーー
雨谷のお母さんはお父さんを愛していて今日まで結婚生活を続けてきたのならーーーそれはそれでーーーいいのかも知れない。
「人間って一度に、2人の人を愛せるのかな」
突然の雨谷の言葉に、今度は俺が雨谷の方に顔を向けた。
「無理じゃない?」
「でも昔は、正妻とか側室とかーーー
ーーー…一夫多妻制とかあったじゃない」
雨谷は淡々とそう告げた。
いやいや…無理だよ……
俺は要が湯川さんと何かあったかも知れないってーーーーそれだけで毎日モヤモヤしてるのに……!
「いや!…ーーー無理だ…!!
…てか……ごめん……無理だと思わせて……」
俺の言葉を聞くと、雨谷はぷっと吹き出した。
「無理だと思わせてって…
でも実際ーーー私も無理だと思うよーーー
多分できても…罪悪感に苛まれちゃいそう」
俺は「確かに」と相槌を打ち、時計に目をやった。
思っていたより、雨谷と長く話してしまった。
「いたいた!!!ーーー雨谷さん!」
突然聞こえた声に、俺と雨谷は同時に声の方へと振り返る。
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