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「ーーーーー…」
びっくりした…
好きなんて言われた事無かったから…いや…あっちはそういうつもりじゃないんだろうけど……
雨谷のお母さんと一緒で、もしかしたら雨谷にも、天性の小悪魔感が備わっているのかもしれないなとチラリと考える。
俺は雨谷と別れ、渡り廊下を渡り、工学部の実験室がある棟へと移動する。
そういえば雨谷も工学部なのにさっき反対の方に歩いて行ったけど、よかったんだろうか。
「あ………!」
「…?……あ…!」
渡り廊下の途中で見覚えあるシルエットだなと思い目を細めると、その人物は親しげに右手を挙げた。
広い肩幅にキリッとした眉毛ですぐに俺はこの人が誰かわかる。
「久しぶり!葛西君」
澤田さんは笑うと目尻が下がり、黒目がちの優しげな顔になる。
「こんにちは」
俺も右手を挙げ、澤田さんへと近づく。
「捜査は順調ですか?」
俺が尋ねると澤田さんは頷く。
髪の毛を切ったのか、以前よりもさっぱりとしていて、細い顎が際立って見える。
「あぁ。進展があってな。
津田先生の殺害場所が分かったんだ」
澤田さんは「それでまた色々と話を聞きに来た」と付け足した。
「ーーー何処だったんですか…?
そのーーー殺害場所ってーーーー」
聞いて良いのか迷いながら、俺は尋ねる。
多分澤田さんなら、俺が色々事件について話している事もあって教えてくれるのでは無いだろうか。
「薬品庫だよ。
工学部の棟の実験室の奥にあるーーー薬品庫。」
「薬品庫…」
俺はつい、繰り返して呟いた。
あそこに入れる人間は限られている。
実験で使う薬品を申請して、鍵を借りる手続きをした生徒かーーー後は鍵を持っている青木先生か…津田先生本人。
薬品庫の鍵は、全部で3つしかない。
青木先生が薬品庫の鍵を開けてーーー津田先生をーーー
そんな悪い想像が頭をよぎるーーー…
もしくは津田先生がーーー自分で鍵を開けて薬品庫にいる時にーーー誰かに殺害されたのかーーー?
個人的に、誰かが薬品庫を開けて津田先生を呼び出して、殺害するというのは不自然な気がした。
「後もう一つーーーーー」
澤田さんは人差し指を立て、俺に一歩近づき近づいてから、人目を憚る様な低い声で言った、
「ーーーーー…!!」
澤田さんの言葉に、一瞬息ができなくなった。
俺はその言葉を信じられず、信じたく無くーーーただただ黙って澤田さんの顔を見つめた。
澤田さんは俺を見下ろして、頷いた。
自分の言葉が、まるで、紛れもない事実なんだと言うように。
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