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「ええええぇぇぇぇ!?!?!?」
「声がデカい!!!!!」
日もすっかり暮れて暗くなった教室で、俺の高校からの友人、紺田要は叫び声を上げた。
理由は俺が今日知った、湯川さんと津田先生が夫婦であるという事実を要に伝えたからだ。
要は俺にカフェのバイトを紹介してくれた人物で、自身も俺と同じカフェで働いている。
「えーーーー…マジか……
湯川さん枯れ専なんだ……すっげぇショック…」
要は本当にショックを隠せないらしく、小さい声で呟き、目を手で覆い隠す。
枯れ専…と言うのは失礼というか言い過ぎな気もするけど、事実俺もそれなりにショックだ。
「この間さ……別の学部の女子と合コンして…
その時津田先生の話になって……
みんなカッコイイ、カッコイイって言ってて…
そんなジジ好みなら合コン来んなよ!
って思ったけどーーーー
津田先生が湯川さんの旦那……
って思ったら…ますますムカつく……」
ムカつくというか、お前のそれは嫉妬だろ…
てか……お前……合コンしてたのか…
彼女が欲しいと言ってる俺には一歳声もかけずに。
俺はそれが憎たらしいぞ……と、要に心の中で呟く。
「やっぱり女の人は年上が好きなのかな…
……でも津田先生だしなぁ……
イケメンだし、頭良いし、性格良いし……わからなくもないけどーーーーー」
俺は津田先生思い浮かべる。
津田先生は確かに工学部の数少ない女子生徒だけでなく、他の学部の生徒からも人気だ。
時々廊下や食堂で生徒達と親しげに話してる姿を見かけるが、津田先生は年齢関係なく確かに魅力的でーーーーそれこそ湯川さんと結婚した10年前からそうだったのであれば、湯川さんが津田先生を好きになってしまうのも理解できる。
「いやいやいや…上って言っても上すぎね?
21歳差とか…俺らが生まれる前の赤ちゃんと結婚する感じじゃん…?
ーーーー確かに津田先生はイイ人だけど…津田先生とヤルかって言われたらーーー…無理じゃね?」
要は手を「ありえん!」と言わんばかりに顔の前でぶんぶんとやった。
お前はなんでもそういう方に持ってくな…と内心ツッコミを入れた。
でもまぁ…確かに…
…俺も最初そう思った……
やるやらない関係なく、ちょっと離れすぎてる気もする。
事実俺もーーーショックだったし……
湯川さんは事実結婚しているから俺とどうこうなる事は無いのだけれどーーーーそれでもショックだった。
津田先生が湯川さんのタイプだとしたらーーー俺の事なんて……子どものように思っているのかもしれない…
なんだか、明らかに恋愛対象外と言われたかのようで、ショックだ。
「俺、湯川さんとなら付き合えるのに…」
「いや、ダメだろ…お前が良くても…」
俺は要にツッコミを入れた。
要は昔から、美人に目が無い。
すぐあの子可愛い、この子可愛い、って。
道を歩いてて美人に、視線を持って行かれて首があさっての方向を向いてる時がある…
でも要が好きなのは派手系の美人だから、湯川さんとは少し違うタイプな気がするんだけど…
「えーーーー…
俺この間さ、せっかく湯川さんにライン聞いたのに……
あわよくば…って思ってたのに……」
あわよくばってなんなんだと、俺は要を少しだけ冷やかな目で見た。
要は俺と違ってーーー女慣れしているというかチャラいと言われるタイプなのだろう。
女性が喜ぶツボを心得ているというかーーーそれこそこの間も湯川さんが持っていた荷物を、横からサッと持ってあげていた。
「…お前湯川さんの前でやたら頑張ってるなと思ったら、そういう下心があったわけだな…」
要の接客態度が良くなったなと思っていたが、それはそういう下心の為だったらしい。
「だって湯川さんちゃんと頑張ればめちゃくちゃ褒めてくれるし!
ーーーしかも!!!意外に胸あるし!!!」
「最低…」
要の言葉を聞いて俺はため息をついた。
本当最低だ…お前湯川さんのそんなところ見ていたのか……
「ーーーーー楽しそうだな…」
「「ひッ!?!?!?」」
俺と要は突如聞こえてきた声に、2人で声を揃えて小さな悲鳴を上げた。
「ーーー早く帰って勉強しろよ…
……女なんて居ても仕事の邪魔になるから」
言われて、俺は要の表情を伺う。
要はこの人の事が酷く苦手であるにも関わらず、既に愛想笑いの様な顔を浮かべている。
青木先生。
34歳という若さで教授にまで上り詰めた、いわばエリート。
俺自身その経歴に憧れはするけど、研究意外は見向きもしなそうなーーーこの冷たい感じがーーーーなんとなく苦手だった。
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