7

4/8

178人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「好きなんです」 はっきりと告げられたその言葉を、私はもう一度頭の中で繰り返した。 そして考える、さらに狭まる紺田君の腕の中で、私は何と言えば、彼を傷つけずに、彼の好意を拒む事が出来るのかと。 「ーーー湯川さんと一緒にいたくてーーー少しでも…湯川さんの力になりたくてーーー… だから……あの日嘘をつきましたーーー ーーー俺じゃダメですかーーー…? 湯川さんとこの先一緒に生きていくのがーーー俺じゃ…ダメですかーーーー…?」 紺田君の声を聞きながら、私は紺田君の言ったあの日の事を思い出していた。 私がエッジハウスで倒れてーーー紺田君との生活が始まったあの日の事ーーーー ーーーーーーーーーー 「湯川さん…!?…大丈夫!?!?」 自分が持っていた食器が割れる音と、店長の涼子(りょうこ)さんの声で、私は自分が倒れてしまった事に気がついた。 倒れたと言っても直ぐに意識は戻って、私は無理矢理体を起こそうとした。 「大丈夫…です……すみません…お皿が……」 頭を上げると、なんとも言えない吐き気が込み上げてきて、私は思わず胃の辺りを手でぎゅっと掴んだ。 「いいのいいの…! 大丈夫…!?……休憩室行こ……!」 私は涼子さんに連れられ、休憩室までなんとか歩いて行った。 休憩室の奥にある資材室の椅子に腰掛け、私は吐き気を堪える。 気持ち悪いーーーーあの人に似た後ろ姿の男性を見た瞬間ーーー冷や汗が一気に吹き出してーーーーこうなってしまうなんて思いもしなかった。 「ーーー…大丈夫…っすか?」 私と涼子さんのいる資材室を軽くノックし、遠慮がちに声をかけてきたのが出勤したばかりの紺田君だった。 「大丈夫じゃなさそうーーーー… …湯川さん…今日はもう帰って……病院行けたら行ってきてくれないかな…? ーーー頭とか…打ってたら心配だし……… 私抜けるわけに行かないからーーー紺田! 今日車で来てる?ーーー来てるなら湯川さんをーーー病院までお願いしたいんだけどーーー」 言いかけた涼子さんを私は慌てて引き止める。 病院はダメだーーーー。 「あの…大丈夫です……! 少し休んでーーー自分の車で行けます…!」 正直、誰かに運転してもらえるならそうしてもらいたい。 指先も軽く痺れてるし、足先だってそうだ。 でも誰かと病院なんてーーーー今の私にはとんでもない話だった。 「でも……顔真っ青よ……! ーーーなんかあってからじゃ遅いし…ましてーーーー」 涼子さんはあの人の事件を口にしようとして、咄嗟にその言葉を引っ込める。 嫌な沈黙が流れようとした、その時だった。 「いいっすよ。…行きましょ、俺の車で。 ーーーー車、前に移動させてきますね」 紺田君はさっき脱いだばかりのアウターから車の鍵を取り出し、店を出ていく。 断ろうとしたのに、貧血のような吐き気と浮遊感が、喋ることすら億劫にさせる。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

178人が本棚に入れています
本棚に追加