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「じゃあ」 紺田君の声に顔を上げた。 「一緒に暮らします?俺と」 予想外の提案に私は息を止めた。 「そんなのダメ」そう言おうとした。 「というのは冗談ですけど」 揶揄うように笑われて、私は言葉を飲み込む。 「ーーー湯川さんが怖い時は、俺と一緒にいる事にしません?」 私は黙って、紺田君の発した言葉をもう一度繰り返す。 怖い時は、一緒にいる???? 紺田君は車を駐車する時につけた、ハザードランプを消した。 「俺が毎日、湯川さんの家に行くんでーーー そしたら怖くないでしょ? 一緒に食事して、片付けしてお風呂入ってーーー あ…お風呂は湯川さんだけ入れればいいんですけどーーーー で、湯川さんと一緒に寝てーーー湯川さんがちゃんと寝たの見届けたらーーー俺は帰ります」 まるで誰かのように、紺田君は私に一方的に説明をした。 そしておまけに「どうです?」と尋ねてくる。 「ーーーダメ…。 …紺田君が私の家に出入りするのはーーー…リスクが多すぎるよーーーー… それにーーー…一緒に寝るとか…それはちょっとーーーー」 「信用できませんか?俺の事」 「そういうわけじゃないけどーーー」 そういうわけもあるのだけれど、一回りも年下の紺田君を前にそうは言えない。 自意識過剰もいい所だ。 「ーーーーじゃあ、約束しましょ。 お互いーーーお互いの体には触らない事。 あとーー俺は湯川さんの家に泊まらない事。 ーーー湯川さんが寝たのを見届けて、必ず自分の家に帰る事」 そんな口約束で、簡単にうんとは言えない。 「ーーーでも…やっぱそんなの悪いよ… 私の家に来てから自分の家に帰るなんて大変だしーーー効率が悪いよーーー」 効率が悪い、と、紺田君は繰り返して笑った。 「湯川さんから効率とか聞くと思わなかったーーー… でもいいですよ…俺がそうしたいから、少しの間そうしてみましょう? 俺とどうこうなる事は心配しなくていいですよ。 ーーーー俺、こう見えて彼女一筋なんで」 私はこの瞬間、紺田君に彼女がいる事に驚く。 葛西君はーーー「紺田はチャラいけど、今はフリーです」といつだかそう言っていたのに。 「ーーー彼女いるなら…尚更ダメ! ーーーどんなに寛大な彼女でもーーー嫌だと思う……!」 私達は車の中で、この押し問答をここから20分は繰り返し、最後は私が、紺田君の提案を受入れる形となった。 この日初めて、私は紺田君に見守られながら過ごした。 いつもより食事をしっかりとして、ゆっくりお風呂に入り、そして夜、一緒のベットに入った。
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