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俺が雨谷から聞いた話に違和感を感じたのは、雨谷と話してから数日後の、エッジハウスでの羽川と松本の会話がきっかけだった。
「ーーーー無い…!」
自分のロッカーを一通りガサガサしてから、松本は呟いた。
俺はその呟きが気になり、松本に声をかける。
「どした?…無いって…何が?」
俺が聞いている間も松本はロッカーをガサガサとしている。
「エプロンが無い…!
…えーーー…なんで!?
…俺絶対入れたんだけど、確実に!!!」
アルバイトの際に必需品のエプロンが無いという理由で、松本はもう泣きそうな声を出している。
松本はこの間もとんでもないミスをやらかしてーーー山本さんにかなり叱られたと聞いている。
だから尚更、エプロンが無いから貸して欲しいと山本さんに言うのに抵抗があるのだろう。
今日は店長が休みで…エプロンを貸せる権限のあるスタッフは、山本さんしか店にいない。
「クリーニングに出したか、持って帰ったんじゃないの?」
「いや、絶対ロッカーに入れたんだって…!」
松本はまだ言いながら、ロッカーをガサガサして、ついには自分の鞄まで逆さまにした。
ーーー無いなら諦めて借りるしかなさそうだけど…
「あ………」
後ろから低くて聞き取りにくい声が聞こえた。
見ると羽川が俺と松本の後ろに立っている。
「ーーーもしかして…エプロン探してる…?」
羽川に聞かれた松本は大きく頷き、見たのか!?と聞き返した。
羽川は自分が今着けている、緑色のエプロンを引っ張って俺らの前に差し出した。
「ーーーーごめん…俺がエプロン忘れて…。
…松本の借りちゃった…本当ごめん…
俺もうバイト終わりだから、返す」
羽川はあっさりと言い、軽く頭を下げると脱いだエプロンを松本に被せた。
ーーー…なんか変な光景だな…。
「…言えよ!……勝手にロッカーからエプロン取るとか…犯罪だからな!!」
犯罪というのは大袈裟な気もするけど…でもそうかと、俺は納得する。
とりあえず見つかってよかった…松本は本当に泣きそうだったから……
「松本が出勤なの知らなかったんだ…
でもロッカーの鍵開けっぱなしにしておく方も悪いからな…!
あれじゃあ誰でも開けれちゃうぜ」
羽川は悪びれずにヘラリと笑って、早々と帰る準備を始めている。
ロッカーの鍵閉めてなかったのかーーーーと、ムッとする松本見た瞬間、俺は雨谷の言葉を思い出した。
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