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「ーーこの白衣も本当自分でどこにやったか覚えてなくてーーー…無い!って思ってたら、自分でクリーニングに出してるんだもんね…」 それと同時に菅原さんの言葉も頭の中に蘇る。 「この間言ってた白衣…やっぱりクリーニングに出してました!!! …これです!!! クリーニング業者さんが、間違って医学部の白衣と一緒にしたらしくて…」 違う。 クリーニング業者さんは滅多な事がない限り、医学部の白衣と工学部の白衣を一枚だけ間違えて戻したりはしない。 雨谷の白衣はーーー誰かがなんらかの理由で勝手にロッカーから取り出して…リネン室の袋に自分で入れたんじゃないだろうか。 俺の疑念は考えれば考えるほど大きくなり、俺はその日バイトが終わってから澤田さんに電話をした。 澤田さんは俺の話を聞くと、直ぐに調べてみると言って電話を切った。 立て込んでいるのか、忙しいのか、澤田さんはいつもより冷たい気がした。 それとも俺と親しくするとーーー捜査をしづらくなるから…罪悪感から敢えて冷たくしているのだろうか。 「紺田要が湯川美緒の家に出入りしているーー」 澤田さんはあの日俺にそう耳打ちした。 信じたくないとーーー正直、そう思った。 それはーーー湯川さんの家に出入りしてる要への嫉妬や羨ましさもあったがーーーー なにより2人がそういう関係なんだとしたらーーーー要が津田先生の事件に関わっているのでは無いかと思ったからだった。 確かに今考えればーーー要は事件の日からしばらくおかしかった。 澤田さんに話を聞かれた時もやけに乗り気じゃなくて、いつものノリの軽い要とは、まるで別人のようだった。 いつもの要ならーーーきっとすんなり着いていくし、話だってする。 喋りすぎるくらい喋ってしまって、余計な事を言って、俺か澤田さんに嗜められるくらいのことがあってもいい筈だ。 要は何かーーー知ってるんだろうかーーー。 もしくは本当にーーー津田先生の事件に関わっているんだろうかーーーー。 そもそも何故ーーー要は湯川さんの家に出入りしているのだろうーーー。 俺は自分がアルバイトを始める前の、湯川さんと要の関係を知らない。 要がエッジハウスでバイトをしているのは高校生の頃からだがーーー要が俺をこのバイトに誘ったのは、ほんの半年ほど前だ。 だから俺はーーーーそこからの2人の関係しか分からない。 もしかしたら俺が働く前からーーーー ーーー湯川さんと要はデキていてーーーー 津田先生が邪魔になった要か湯川さんがーーーー 「ーーーーーまさかな……」 俺は自分の「まさか」を聞きたいが為に、わざわざ声に出して独り言を言った。   要も湯川さんもーーーーー…人を殺せる様な人じゃない。 俺は自分が描いた妄想を掻き消した。 そして澤田さんの話を聞いてからのこの1ヶ月間、ひたすら祈る様にそればかり考え生活をしていた。 それでいて、要と湯川さんの関係を知らないふりをした。 要が湯川さんの家に出入りしてるーーーその事実は思い返すと辛く、嫉妬心も確かに感じた。 でもそれ以上にーーー要も湯川さんも何か事情があってそうしているんだとーーー信じたい気持ちが俺の中にあったーーー。 だから澤田さんから聞いた話をそのままに要に嫉妬し、要を遠ざける事はやめようと思った。 俺は努めていつも通りに要と学校で会えば挨拶をし、昼食の時間が合えば一緒に食事をし、お互いバイトがある日は一緒にエッジハウスへと向かった。
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